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FD研修

SIOG Geriatric oncology advanced course, Treviso, Italy における研修報告

研修期間2018年6月27日~6月30日
報告者山口大学医学部附属病院 腫瘍センター 准教授 吉野 茂文(医師)
愛媛大学医学部附属病院 腫瘍センター 特任講師 朝井 洋晶(医師)

我々はがんプロ海外FD研修として、国際老年腫瘍学会(The International Society of
Geriatric Oncology;以下SIOGと略す)主催で2018年6月27日~30日にイタリアの
トレヴィーゾで開催された老年腫瘍上級コースに参加したので、その概要を報告する。

 SIOGは老年腫瘍学領域における医療専門家を養成することを目的に2000年に設立され、
2012年にはスイスで非営利団体として登録された学会で、腫瘍内科医、老年内科医だけでなく、
あらゆる領域の医療従事者で構成され、世界中で40か国以上、1000名を超える会員がいる。

 本上級コースの目的は、“それぞれの医療施設において腫瘍治療医、老年内科医を中心とした
多職種からなる医療チームを形成できる医療者を育成する”ことであり、今回は、昨年につづき
日本から我々2人が参加した。その他にも米国、欧州をはじめとする16か国から合計40名の
臨床医(腫瘍内科医、老年内科医、外科医、放射線治療医)が集合し、3.5日間の日程で、
サクロ・クオーレ・カトリック大学内において本研修が行われた。

写真1:Welcome board

第1日目(6月27日)

14:00~14:30 参加者自己紹介、研修の目的などの確認

14:30~16:00 高齢者機能評価の基本1
          ①高齢がん患者がん診療において老年内科医が腫瘍内科医に確認し行うべきこと
          ②高齢がん患者がん診療において腫瘍内科医が老年内科医に確認し行うべきことについて学ぶ

16:30~18:00 高齢者機能評価の基本2
          ①高齢直腸がん患者の例を通して、多職種連携について学ぶ
          ②高齢がん患者に対する多職種からなるチーム医療の現状に国際老年腫瘍学会の活動と
           各国の状況について学ぶ

1日目は各参加者の自己紹介ののちに、高齢者機能評価を中心に、高齢がん患者の診療において、「老年内科医が腫瘍治療医に確認するべきこと」、「腫瘍治療医が老年内科医に確認するべきこと」の概要をそれぞれ学んだ。前者には、①腫瘍による症状や臓器障害の有無、②疾患の予後、③治療の選択肢(標準治療、標準治療ができない場合の代替治療、治癒、延命、症状緩和などの治療目標)、④治療の毒性/臓器への影響、⑤治療の緊急性などが含まれ、後者には、a)身体機能、b)併存症、c)認知機能、d)うつ傾向、e)併用薬剤状況の確認、f)栄養状態、g)老年症候群の有無、h)転倒リスクなどがあげられる。  特にSIOGでは、70歳以上の高齢がん患者においては、G8※1を用いた高齢者機能のスクリーニング評価を推奨しており、15点以上をFit患者として若年者と同じ標準治療を検討し、14点以下の場合は、総合的高齢者機能評価(Full CGA)を追加し、Frail患者と判定されれば治療への耐容性が低下していると判断し、老年内科医らと相談しながら治療強度の減量や緩和ケアなども考慮するといった戦略を学んだ。

第2日目(6月28日) 腫瘍内科医向けの老年医療学の基礎

08:00~08:30 ①加齢、脆弱性の生物学について学ぶ

08:30~09:30 ②高齢者機能評価のスクリーニング方法、介入について学ぶ

10:00~10:30 ③高齢者の多剤併用について学ぶ

10:30~12:00 ④老年症候群について学ぶ

13:00~15:00 フレイル高齢前立腺がん患者のグループディスカッション
          症例1;限局期前立腺がん
          症例2;進行期前立腺がん+その総括

15:30~17:30 フレイル高齢造血器腫瘍患者のグループディスカッション
          症例1;悪性リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)
          症例2;多発性骨髄腫+診療のポイントについて総括

17:30~17:50 高齢がん患者の外科的治療(手術)についての講義

17:50~18:10 高齢がん患者の麻酔、緩和医療についての講義

18:10~18:30 高齢がん患者の放射線治療についての講義

2日目の午前中は腫瘍治療医と老年内科医の2グループにそれぞれわかれ、お互いの領域の基礎知識に関するレクチャーが行われた。我々2人とも高齢者機能評価、老年症候群、Polypharmacyについて学んだ。
 昼食は大学内でケータリングによるイタリア料理がふるまわれ、ワインなどのお酒も交えながら、Meet the Expertとして、“高齢がん患者のあるべき臨床試験について”、“どのように多職種チームを形成すべきか”などテーブルごとにテーマ、講師が配置され、参加者は好きなテーブルにつき活発なディスカッションが行われた。
 午後からは高齢前立腺がん、造血器腫瘍患者の症例提示が行われたのち、腫瘍内科、老年内科、外科、放射線治療が均等に配置された4つのグループで、提示された患者の高齢者機能評価を基に最適な治療戦略や介入方法についてグループディスカッションが行われた(写真2)。さらには、高齢がん患者の外科治療、麻酔、緩和医療、放射線治療についてのレクチャーを受けた。

写真2:グループディスカッションの様子

第3日目(6月29日) 高齢がん患者の支持療法について

08:00~08:30 支持療法の要点についての講義

08:30~09:00 Prehabilitation(身体機能低下予防のための医学的介入)と
          rehabilitation(機能回復のための介入)に関する講義

09:00~09:30 高齢者がん患者におけるがん性疼痛、非がん性疼痛に関する講義

09:30~10:00 高齢がん患者における抗がん剤治療の毒性予測と毒性軽減に関する研究についての講義

10:30~12:30 フレイル高齢乳がん患者のグループディスカッション
          症例1;限局期乳がん
          症例2;進行期乳がん+診療のポイントについて総括

13:30~15:30 フレイル高齢肺がん患者のグループディスカッション
          症例1;限局期非小細胞肺がん
          症例2;進行期非小細胞肺がん+診療のポイントについて総括

16:00~17:00 高齢者がん医療に関する臨床研究について
          ①臨床試験解釈について

17:00~18:00 ②臨床試験の計画と実施についての講義
          参加者が経験した高齢がん患者の症例提示とディスカッション①

3日目の午前中は、がん性疼痛、抗がん剤治療に対する支持療法、リハビリテーション、Prehabilitation※2(身体機能低下を予防するための医学的介入)について学び、高齢乳がん患者、高齢肺がん患者についてグループディスカッションを行い、高齢者がん患者の臨床試験について学んだ。

第4日目(6月30日)

08:00~10:00 フレイル高齢結腸がん患者のグループディスカッション
          症例1;進行期結腸がん
          症例2;限局期結腸がん+診療のポイントについて総括

10:30~12:30 参加者が経験した高齢がん患者の症例提示とディスカッション②

12:30~13:00 コースの評価と総括

最終日は高齢者大腸がん患者のグループディスカッションののち、今回の参加者が経験した高齢がん患者について症例プレゼンテーションとディスカッションを行った(写真3)。
 本研修会では、老年腫瘍学に関する生物学的基礎から、実臨床への導入方法(機能評価に基づいた医療介入、多職種チーム医療の重要性、Frailtyに基づく治療強度減量調整)、さらには老年腫瘍学研究についても学ぶことができた。さまざまな国、地域、専門分野(腫瘍関連の専門医、老年内科医)の参加者が集まるため、その国々の高齢者医療体制などの情報も得られ、とても有意義な研修であった。しかし、本コース内では、G8などの高齢者機能評価そのものの具体的な実習は含まれず、症例を用いたグループディスカッションでも、高齢者機能評価を行っていることが前提で、その情報をもとに、その症例の治療戦略についてCancer boardのように検討するものであった。今後本コースに参加される方には、高齢者機能評価に関する予習をして参加することをお勧めする。

※1 G8:①食事摂取、②体重減少、③身体活動度、④認知機能、⑤BMI、
   ⑥Polypharmacy、⑦健康度の自己評価、⑧年齢の8項目を点数化した
   高齢者機能スクリーニング方法(Carine Bellera, et al.Ann Oncol 2012;23:2066-72)
※2 Prehabilitation:リハビリテーションは低下した身体機能を回復させる医療介入だが、
   Prehabilitationは身体機能が低下する前から予防的に行う身体機能維持を目的とした
   医療介入として本研修会で紹介された。

写真3:吉野の症例プレゼンテーション

写真4:SIOG研修会に参加した講師・受講者

左から朝井、吉野、Lodovico Balducci先生、
Silvio Monfardini先生、Etienne Brain先生、Martine Extemann先生

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