H.Lee Moffitt Cancer Centerにおける研修報告
研修期間 | 2015年2月23日~2月27日 |
報告者 | 岡山大学 西森 久和(医師) |
研修内容 | モフィットがんセンターBMT部門の見学 |
第1日目(2月23日)
10:00~17:30【外来見学】
Dr. Nishihoriの外来にて、6名の患者診察を見学した。6名中5名が多発性骨髄腫の患者であった。モフィットがんセンターでは、多発性骨髄腫に対して、積極的に自家末梢血幹細胞移植を施行しており、年齢の上限を設けていないとのことだった。基本的には外来での移植治療がメインだが、外来が多すぎるため、入院で施行せざるを得ないという、日本とは大きく異なる状況であった。Registered Nurse(以下:RN)とfellow doctor(以下:fellow)が患者の経過などを把握し、staff doctorがそれを基に、追加でclosed questionをした後、検査結果説明、治療方針説明、臨床試験の同意などを取っていた。
Fellowはstaffの診察の横について、自分のとった所見が正しかったかどうかを確認し、staffのコメントをメモして学習していた。Staff doctorが2~3名と、それぞれのstaffにRNが2名とfellowが2名、さらにnurse practitionerが加わるチームを作り、診療していた。
第2日目(2月24日)
9:00~12:00【病棟回診見学】
移植ベッドは36床あり、2つのチームに分かれ、18名ずつを朝9時より回診する。2日目はDr. Mishraのチームを見学した。回診までにfellowが状態把握と血液データの確認をして、担当nurseとともにstaff doctorにプレゼンをする。それに基づき、治療方針を決定してから患者に会いに行き、検査結果と治療方針を説明するという流れであった。回診には、薬剤師とsocial workerも参加し、それぞれの立場で問題点についてコメントをしていた。役割分担が出来ていて、チーム医療という面では参考にすべきだと思ったが、staff doctorやその他のメンバーも交代で回診を担当するため、各患者の時系列経過を把握するのが遅く、10数名の回診に4時間以上かかっていた。Fellowの教育という意味では、じっくり検討する点で良いと思ったが、確実な患者把握という点で若干不安なシステムであった。
13:00~17:30【外来見学】
Dr. DabajaはAML/MDSを担当していた。
外来は午後1時から約4~5時間で患者は5~6名程度。1名にかける時間は最低30分~1時間程度と、十分に時間を使うことが出来る。先にnurseとfellowが状態を把握してstaffに報告し、治療方針を決めるのだが、時間に余裕があるため、とても多くのdiscussionをstaff-fellow間で行っていた。その情報をnurseや薬剤師も共有し、質問やコメントをしていた。Fellowの教育という意味では、外来はとても有意義だと思った。
第3日目(2月25日)
9:00~13:00【病棟回診見学】
Dr. Pidalaのチームを見学した。Dr. Pidalaは、仕事のメインが「研究」のstaffあったが、1年間のうち約2ヶ月は臨床を行う決まりになっていて、病棟回診も忙しくこなしていた。2日目の別チームの回診よりもスピードが遅く、更に昼12時を過ぎると研修やe-learning受講のために回診から外れるfellowやnurseが多くなり、余計に患者把握に手間取っていた。
13:00~17:30【外来見学】
Dr. Ayalaはリンパ腫を担当していた。移植後の長期フォローアップにおいては、NMDPのガイドラインに沿ったフォローを原則としつつも、主治医毎に臨機応変に患者へ適応していた。移植後のワクチン接種は、同種のみならず自家移植患者でも固まったプランに沿って積極的に施行していた。
資料:Vaccination Orders
第4日目(2月26日)
8:00~12:00【外来見学】
Dr. Nishihoriの外来見学。血縁ドナーの診察(プエルトリコ人でスペイン語の通訳付)や、myeloma自家移植後メンテナンス中に白血化してしまい、hematology departmentに紹介した方などを見学した。
12:00~13:30 【BMT clinical research meeting】
毎月1回、現在進行中の臨床試験の進捗状況報告、新規試験の提案などを議論するミーティング。外来が長引き、会議の最後しか参加できなかったが、頂いた資料(confidential)では30を超える臨床試験が動いており、このようなミーティングの必要性を感じた。
15:00~16:00【Interview】
モフィットがんセンターにおけるfellowの教育についてDr.Nishihoriにinterviewした。重要視しているのは、外来診療をstaffとfellowが一緒に議論しながら進めていくことであった。それができるのも、1名の患者にかけることの出来る時間が多いのが、日本における外来診療との大きな違いであることを認識した。また、週1回3時間(毎週月曜日の13時~16時)、fellowに学習の時間が与えられていた。内容はstaffによる疾患に関するレクチャー(学会の教育ガイドラインに沿ったもの)、小グループに分かれての症例検討、さらには、fellow同士がテーマを決めて学習したことをレクチャーしあうコマなども1年間のカリキュラムに組み込まれていた。他にも、週1回のBMT tumor board、laboごとのlabo meeting、月1回のBMT clinical research meetingがあり、症例検討・基礎研究・臨床試験に万遍なく触れることができる。Fellowの中には将来mouse modelで基礎研究を続ける、など方向性が決まっている人もいて、それぞれのfellowが基礎研究の時間を増やすなど工夫をしていた。
第4日目(2月27日)
8:15~14:00【Scientific exchange program】
各がん種での検体を集めて、網羅的に解析して得られるデータから、新薬の創出やがん克服を目指す目的で開かれているシンポジウムに参加させていただいた。Confidentialな内容が多く、詳細を報告できない。Key wordは、”Total Cancer Care”、”Omni-Omics”などであった。
14:00~15:00【BMT injection center、transfusion center見学】
固形がん患者の外来化学療法センターとは別に、BMT injection centerがあり、見学させていただいた。個室ベッドが8床とカーテン仕切りのベッドが16床あった。土曜、日曜も朝7時~夕方5時までopenしているとのことだった。ここでは、自家末梢血幹細胞移植を外来でできる体制が整っており、日替わりでfellowが1日この部署を担当し、患者のトリアージをしていた。nurse practitionerも細かくフォローし、staff doctorもsuperviseする形で顔を出して、fellowと議論し、翌日の点滴オーダーなどを決定していた。入院でのフォローが適当と思われる、状態のあまりよくない患者も頑張って通院していた。
Transfusion centerでは、6床のベッドがあり、末梢血幹細胞採取とECP(extracorporeal photopheresis)を施行している。現在ECP治療中の患者が36名、末梢血幹細胞採取が年間のべ600件とのことだった。
15:30~17:00【BMT tumor board】
Staff doctor、fellow、看護師、social workerが参加し、以下について症例検討をしていた。
- 新規入院予定の移植適応患者(外来)
- 幹細胞採取患者(外来)
- 院内紹介でフォローが必要な患者
- 病棟患者(doctor、看護師それぞれが議論必要とした患者)
これらプレゼンはすべて、staff doctorが行っていた。Fellowを含め、他のmedical staffはプレゼンの後にコメントして情報共有をしていた。ハプロ移植はモフィットがんセンターでも2例しか経験がないそうで、この日のプレゼンでは1名適応となる症例がおり、前処置、末梢血/骨髄の選択などで熱い議論が繰り広げられていた。
まとめ
1. 研修先において学んだこと
BMT departmentにおけるfellow doctorの教育方法、入院・外来診療など
2. それをどのように教育に生かすか(いつまでに、どのような形で、どこまで)
今から、入院・外来診療で時間の許す限り教育をしていく。
3. それをどのように臨床に生かすか(いつまでに、どのような形で、どこまで)
良い所を取捨選択して取り入れていく。
4. それを実行するための方策
Tumor boardで提案して取り入れていく。
文責 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 血液・腫瘍・呼吸器内科学 西森 久和