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FD研修

H.Lee Moffitt Cancer Centerにおける研修報告

研修期間2013年2月11日~2月15日
参加メンバー川崎医科大学付属病院 遠藤 陽子(管理栄養士)、兼光 洋子(看護師)※別行程:看護師研修
報告者川崎医科大学付属病院 遠藤 陽子

中国・四国広域がんプロ養成コンソーシアムのFDプログラムとして、2013年2月11日~15日の5日間、アメリカ合衆国フロリダ州タンパにあるH.Lee Moffitt Cancer Centerでチーム医療(NST: Nutrition Support Team、緩和ケア)における管理栄養士の役割および栄養療法(栄養教育)について研修を行い、今後の当院でのチーム医療のあり方や栄養教育に役立てることを目的とした。

第1日目(2月11日)

9:00~10:30

研修のコーディネーターLinda Davenportさんが休日のため代行のLeonore Salazarさんより研修にあたっての簡単なオリエンテーションを受けた。その際、患者のプライバシー等の情報の守秘義務やその他の規則を遵守することを誓う書類にサインをした。
 その後、今回指導していただく栄養部長を紹介された。プログラムは用意していただいていたが、英語力が乏しくコミュ二ケーションが十分に取れなかったため本日の研修は終了した。

 

第2日目(2月12日)

9:00~9:30

再度事務室にてコーディネーターのLinda Davenportさんに研修交渉をしていただいたが、今日は看護師研修に加わるようにと説明を受けた。

9:30~12:00

Registered Nurse(RN)のリナーさんのところへ行き、看護師研修に参加している兼光看護師と共に救急部門の見学をした。途中、リナーさんの計らいでRegistered Dietitian(RD)でNSTサポートの一員であるMaureen Gardnerさんを紹介された。電話通訳を介してNSTサポート体制について学んだ。モフィットではNSTチームは一つで、胃腸外科の医師、薬剤師、看護師、管理栄養士(RD)からなっている。患者のピックアップについてはRDも携わるが、まずDietetic Technician(DT)が患者の栄養量の計算や食事内容についてRDに提案、依頼がありRDが変更、低栄養患者は医師に推薦し医師がサインするとのことであった。外来患者についても同様とのことであった。サポート内容については、患者の病態、症状、栄養量をすべてトータルで見ながら、チームのスタッフ、患者本人、患者家族の意見とともに関わっていく。
 NSTのチーム構成、患者サポートの内容に関しては、大きく日本と変わりがないと感じられた。しかし、当院ではまだ外来患者に対してのNSTサポート体制は確立できていないので今後の課題であると考えた。

その後、Maureen Gardnerさん(写真1)と病棟見学および給食部門の見学をした。(写真2~4)
 給食部門は栄養部とは別の組織で動いており、委託ではなく直営である。食事メニューは栄養士が考え、献立表が患者にも配布される。もともとアメリカの制度は日本と違い、給食部門と栄養療法部門の掛け持ちではなく、管理栄養士は栄養療法のみの専門職である。日本ではNST専従の管理栄養士でないと難しいと感じた。

Maureen Gardnerさん
写真1

Maureen Gardnerさん

厨房内
写真2:厨房内
デザート
写真3:デザート
配膳車
写真4:配膳車

*アメリカの栄養士制度

栄養アシスタント
[Dietetic Assistant]
専門学校、栄養大学卒業
栄養技師
[Dietetic Technician(DT)]
2~3年の栄養士コース修了
栄養士[Dietitian]4年制大学卒業
(日本でいう「栄養士」。給食管理が主な仕事。患者に聞き取り指導もできるが、決定権はRD)
登録栄養士
[Registered Dietitian(RD)]
[Licensed Dietitian(LD)]
4年制大学卒業+ADA 認定試験、RD+州単位の登録
(難度の高い栄養アセスメント、静脈栄養、経腸栄養などの検討(→医師に提案)、薬と食の相互作用のチェック、栄養カウンセリングなど。いわゆる日本の「管理栄養士」。日本は管理栄養士の資格を取れば一生働けるが、アメリカでは5年毎の登録の更新が必要。)

14:00~16:00

午後からコーディネーターLinda DavenportさんとGift shopで働いておられるHannibal Reikoさんの計らいで、Dr. Taiga Nishihoriさん(写真5)と面会した。モフィットがんセンターのレクチャーの後、骨髄腫瘍病棟を中心に院内の見学をした。Dr. Nishihoriは血液・腫瘍内科の専門医で骨髄移植を専門とし、11年アメリカに在住している。モフィットは、医師が数百人いて血液内科は16人、骨髄移植には11人、1年に400件(内20件は臍帯血)移植を行っているとのことであった。モフィットがんセンターの入院期間は6.3日と短いが、中でもBMT(骨髄移植)は短期で12日、長期では20日と診療科の中では一番長いとのとことだった。入院も外来もチーム医療が行われており、特に看護師の位置づけが高い。外来には5つのチームがあり、常に患者についての意見交換が行われている。その手段としてはメールのやり取りが主であると言われた。緩和ケアチームについては、Painチームと共に活動しているが管理栄養士は入っていないとのことだった。

Dr. Nishihoriさんと一緒に
写真5:Dr. Nishihoriさんと一緒に

第3日目(2月13日)

9:00~11:00

栄養士研修が困難なためHannibal Reikoさんの計らいでPh.C. Margaret Chan-Carterさんと一緒にチームラウンドに参加したが、その後すぐに、栄養部長からBone Marrow Transplantation(BMT)担当のRD. Myla Rinehardtさんを紹介され、チーム回診に同行した。回診には、医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど7~9人が参加し、看護師が患者の状態を説明し、薬剤師が輸液内容、投薬状況について確認しながら医師とdiscussionしていた。病室の前でひとりの患者に対して時間をかけてゆっくり、納得がいくまでそれぞれの専門職がdiscussionしていた。管理栄養士は、その都度カルテを確認して食事状況や水分量のチェックと検査値を確認しながら患者に話しかけていた。4件の回診を見学し、そのうち2例の患者の栄養指導を見学した。

1例目は、今日退院する患者で、免疫が低下しているため料理の方法や食品の選択について説明していた。良い食品や避けるべき食品について、食事ガイダンスをもとに加熱処理、殺菌処理をすることなど指導していた。2例目は、入院2日目の患者で、自宅での食事の聞き取りをし、エネルギーやタンパク質の補給内容を説明していた。どちらも口内炎や食欲不振時の食事アドバイスの資料を配布して患者の嗜好を確認しながら指導されていた。当院でも回診時に同様に指導しており大きな差はないと感じたが、日本と違い病棟回診に毎日参加しているため患者の状況が細かく把握でき、状況の変化に合わせた指導が行えると感じた。

11:00~12:00

次に、外来で放射線治療に来られる患者を担当している栄養士のKristen Langさんの栄養指導を見学した。彼女は、頭頸部、消化器、婦人科、肺がんなど外来患者のすべてを担当している。担当患者数は日により違うとのことだが、1日約5~10人。指導室は特になく、空室があれば時々使用するが殆どはホールで患者指導を行っている。基本的に、栄養指導の内容としては、化学療法施行が患者の食欲に影響をおよぼすため、少しずつ食べること、カロリーの高い食事や菓子を用いることを勧めている。そして時々、匂いに敏感になるため匂いを回避できるような料理方法を提案している。放射線療法のみの患者に比べて化学療法併用の患者は、食欲減退も激しく体重減少も多い。どちらの場合も、高カロリーの栄養剤の使用や栄養チューブを使用している患者も多く、注入内容や方法など管理にわたって説明されている。

今回、頭頸部がん患者と婦人科がん患者の病状説明を受けたあと、男性頭頸部がん患者の栄養指導を見学した。患者は、化学療法は施行せず放射線療法のみで治療を行っており、大きな体重減少はないとのことであった。食事もとれているが、栄養量が高く、軟らかい食事、ミルクセーキなどカロリーの高い液体などやタンパク質が多いものを摂取するよう説明していた。彼は、毎週外来に来て栄養士と面会し栄養指導されている。当院では、通院治療センターに依頼があれば栄養指導を行っているが、食事量が減ったり、体重減少などが起こる前に少しでも患者と関われる体制作りが必要であると感じた。

13:30~16:00

午後から、消化器外科担当のRD. Alexandra Vermillionさんの外来栄養指導を見学した。

1例目は、食道がん術後(空腸瘻)の女性患者。退院後指導で、食事がとれているか、栄養剤の使用はできているかなど患者や家族に聞き取りをしながら体重の管理、栄養量の設定を行っていた。8kgの体重減少、栄養剤はグルセルナを使用。軟菜食を中心に卵やヨーグルト、チーズなどのタンパク質の利用を勧めていた。栄養量はエネルギー2000kcal(28kg/day)、タンパク質86g(1.2g/kg)と指示されていた(内栄養剤1400kcal程度)。

2例目は、食道がん術前の男性患者。栄養指導は初めてで、放射線化学療法ののち術前5日前から栄養剤インパクトを使用している。食事内容の聞き取りにあわせて、栄養剤による下痢の有無や十分なカロリーとタンパク質を摂ることを説明していた。また、手術後の内容についても触れていた。栄養指導後、医師にすぐに報告され、またカルテに記載される。術前や術後の栄養指導内容は日本でも差はないが、入院期間が短い分、細部にわたった説明がされていると感じた。

そして外来患者の栄養指導は、日本では患者が診察医の部屋や栄養指導室に移動するシステムであるが、こちらでは患者が待っている診察室に医師や管理栄養士が訪問する方法がとられていて、患者にとっては安全で安心できる体制であると感じた。(写真6)

栄養指導のシステムとしては、当院と差はなく医師または管理栄養士または患者から依頼されている。

外来診察室
写真6:外来診察室
Mifflin-St. Jeor式用紙
写真7:Mifflin-St. Jeor式用紙

栄養量の計算方法については、当院ではHarris-Benedict式を用いて算出するが、モフィットではMifflin-St. Jeor式(写真7)を用いて算出していた。計算方法が違うだけで根本的な考えに差はなかった。しかし、体重の目標値が日本では標準体重を目安に算出するが、モフィットでは入院時もしくは初回診察時の体重を目安にしていた。

外科での入院期間については、通常手術後3日、食道術後で7~10日程度。栄養チューブの使用頻度も多く、術後早期に退院するため注入の管理についても栄養指導している。少ない量から少しずつ、下痢時は20ml/hrに設定するなど術後の投与量や注入速度に関しても当院と同じであった。

第4日目(2月14日)

9:00~12:00

RD. Katrina Westさん(写真8)の入院患者の栄養指導を5件見学した。
 1例目、化学療法で、味覚異常があり食欲不振の患者にシェイクやアイスなど食べやすいものをすすめてオーダーする。
 2例目、結腸切除後の男性患者は痛みで食事がとれない、dry mouthもあるため食事の工夫と飲み物の種類の選択。
 3例目は、リンパ腫の女性。2週間で3.5kgの体重減少があり食事がとれないため、メニュー(写真9)の選び方、栄養剤などの高エネルギーの飲み物の紹介をしていた。
 4例目は、膵・脾摘出患者で、低脂肪食の指導であった。当院では、低脂肪食は10g以下から30gまでであるが、50g指示であった(日本では常食程度)。MCT等を使用しているとのことであったが、環境および食生活の違いを感じた。
 5例目は、下痢の患者であった。低繊維食、刺激物等についての指導であった。

RD. Katrinaさん
写真8:RD. Katrinaさん
病院食メニュー表
写真9:病院食メニュー表

13:45~15:00

午後から内科担当RD. Jessicaさんの栄養指導を2件見学した。
 1例目は、ワーファリンを内服している患者に、ビタミンKが多く含まれている食品と量についての指導であった。
 2例目は、イレウス患者で慢性腎不全があり、栄養剤を使用しながらタンパク制限と十分な栄養量を設定し栄養指導していた。

15:00~16:00

その後Director RD. Kathryn Allenより栄養剤(写真10)、指導パンフレットの紹介(写真11)、管理栄養士の仕事内容について説明を受けた。

栄養部では、栄養士、管理栄養士が16名いる。それぞれが、肺、胸、脳、骨髄移植、血液、皮膚、消化器、胃腸内科、婦人科、神経、SCU、ICU、放射線科の専属であった。そして、外来でも入院でも細かいケアがされていた。栄養指導のパンフレットも症状にあわせた細かい内容で多くの種類があった。

経腸栄養剤と高カロリー食品
写真10:経腸栄養剤と高カロリー食品
指導パンフレット
写真11:指導パンフレット

16:30~17:50

Chaplain. Valerie Stormsさんのレクチャーを受けた。病院職員、患者本人、患者家族の心の相談を受けてくれる人であり、現在4人がフルタイム、オンコール4人で24時間いつでも受け付けてもらえる体制を作っている。また、モフィットでは年に2回亡くなった患者さんのday rememberを設けており、医療スタッフ、患者遺族がいつの時期にでも参加できる。
 日本では、医療スタッフや遺族に対する心のケアを設けている施設はないと思うので、心の相談をいつでもできる場所が提供できると仕事をする上で安心できると感じた。

第5日目(2月15日)

9:00~11:30

Ph.C. Margaret Chan-CarterさんとBMT回診に参加した。回診は、病室の前でひとりの患者に対して約15分、内容によっては30分かけてそれぞれの専門職がdiscussionしていく。薬剤師はカルテから検査データを確認し電解質、水分量等の調整を行っていく。患者のチェックリストについて、血液データ、電解質、看護記録から体重、下痢の有無、吐き気、嘔吐、粘膜炎や食道炎等を確認する。その後、症状や状態にあわせて電解質を調整し、TPNの内容調整、滴下速度と量などすべてにおいて管理調整していた。何をどういうポイントで見ていくか、細かい調整の方法等を丁寧に教えていただき大変わかりやすく勉強になった。

12:30~15:30

午後からDirector RD. Kathryn Allenさん(写真12)の栄養指導を見学した。食事がとれないため、食べやすいアイスやジュースなどをセレクトしオーダーした。各病棟には、それぞれの専用冷凍冷蔵庫(写真13)が有りすぐに患者に届けられる。当院では、栄養部で一括しての管理であるため、ややタイムリーとはいかない現状であるが、その分品質管理や衛生管理はできていると感じた。
 その後、RD. Amanda C. Maucereさんの栄養指導を2件見学した。乳び漏れの患者には低脂肪食の栄養指導を行っていた。アメリカでは日本と違い入院期間も短いため、入院中の栄養教育や外来時のフォローなどがん患者に細かい栄養サポートが行われており、資料も豊富で丁寧な患者教育がされていると感じた。

15:30~16:30

研修内容のアンケートに回答し研修は終了した。

Director Kathryn Allenさんと一緒に
写真12:Director Kathryn Allenさんと一緒に
栄養剤冷蔵庫
写真13:栄養剤冷蔵庫

まとめ

1. 研修先において学んだこと

アメリカの管理栄養士は、臨床のみで活躍している。チーム医療においても、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士がそれぞれの専門職の立場から役割分担ができ業務を行っていた。

2. それをどのように教育に生かすか(いつまでに、どのような形で、どこまで)

日本とアメリカは、もともと管理栄養士制度が基本的に違うため同じことは難しいが、当院でなるべく早期に多くの管理栄養士ができるだけ病棟に上がれるチャンスを作る。

3. それをどのように臨床に生かすか(いつまでに、どのような形で、どこまで)

病棟に上げられる時間を確保し、各診療科で患者サポートを行う。

4. それを実行するための方策

随時、症例報告等を行い、知識を高める。また、人員の確保が必要。

最後に

今回、チーム医療(NST、緩和ケア)における管理栄養士の役割および栄養療法(栄養教育)について学ぶ目的で貴重な経験をさせていただきました。研修を受けるにあたり、英語のコミュニケーション不足のため困難をきたしたのにもかかわらず、最後まで十分な研修プログラムを用意してくださった、Reikoさんをはじめ、H. Lee Moffitt Cancer Centerの関係スタッフの方々、職員の方々のおかげで充実した研修になりました。

管理栄養士の制度は、アメリカと日本では大きく違います。臨床栄養士として専門職のスペシャリストとして活躍している姿を見て刺激を受けました。栄養士の社会的立場が確立されていて日本でどのように生かしていくべきかを考えさせられました。チーム医療においても、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士がそれぞれの専門職の立場から役割分担ができ、患者一人ひとりに向き合う姿勢なども勉強になりました。

今後当院でのチーム医療のあり方や栄養教育に役立てるとともにアメリカのような制度は難しいが、管理栄養士の地位確立のため、もっと多くの知識と臨床経験と技術を身につけていく必要があると感じました。

最後に、本研修に参加する機会を与えてくださった中国・四国広域がんプロ養成コンソーシアムの皆様をはじめ、H. Lee Moffitt Cancer Centerの研修スタッフの皆様に心より感謝致します。

文責 川崎医科大学附属病院 管理栄養士 遠藤 陽子

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