Grey Nuns Community Hospital, Royal Alexandra Hospital,Norwood Hospice Palliative Care, Cross Cancer Institute研修報告
研修期間 | 2008年1月21日~25日 |
参加メンバー | 岡山大学 北川 善子(看護師)、松岡 順治(医師)、松永 尚(薬剤師)、溝渕 知司(医師) 香川大学 合田 文則(医師)、金正 貴美(看護師)、田中 裕章(薬剤師)、中條 浩介(医師) 徳島大学 上村 卓弘(薬剤師)、蔭山 恵美(看護師)、埴淵 昌毅(医師) |
報告者 | 岡山大学 松岡 順治 |
今回、中国・四国広域がんプロ養成コンソーシアムのFDプログラムとしてカナダアルバータ州エドモントンにおける地域緩和医療の実態と緩和医療教育について研修を行ったのでご紹介する。
第0日 関西国際空港
徳島、高松、岡山のグループにわかれ関西国際空港団体待ち合わせに集合。この日はみぞれ交じりの底寒い日であった。おのおのその先にさらに厳しい寒さが待ち受けていることを実感しつつ集まるも、寒さに対する備えは各人各様で足元は長靴風のブーツあり、皮底の革靴ありとまとまりを欠く集団であった。しかしこの集団が後に強い連帯感を見せることはこの時点では誰にも予想ができなかった。「中四がんプロ」、美しい響きである。この掲示板が団体受付にかかげられているのを見ると、第一陣としてFD 研修に赴く各人の胸に熱い使命感が湧いてきた。ふと隣を見ると「ウキウキハワイ」の文字。われわれはオーロラの見える極寒に地に赴くというのに、うきうき暖かいところに遊びに行く人もあるとは・・・。地球の広さを実感した。
何事もなくエアカナダの機上の人となり、一路バンクーバーを目指し13時間の旅が始まった。
エドモントン到着後は各自夕食に出かけた。この日は零下13度くらいであった。乾燥しているためか雪は降ってはいないが、一度降った雪がとけず道端に汚れてつもっている。香川チームは一路日本料理「村」へ、岡山チームはレキシントンシアター内のレストランへと散っていった。個人的にはこのときに食べたプライムリブがカナダのベストであった。この時期のカナダでは、朝は9時くらいまで日が昇らず、午後4時になると暗くなる。逆に夏は朝4時から明るくなり11時過ぎまで明るい。店はというと周りの明るさとはまったく関係なく年中午後6時にしまるようである。コンビニに慣れたわれわれには少し不便を感じるかもしれない。
少々もたれ気味のおなかをさすり、明日からの研修に備えへブンリーベッドで眠りについた。
第1日
Grey Nuns Community Hospital
オリエンテーション
Dr. Doreen Oneschuk
(Palliative Medicine Residency Program Director /Grey Nuns Community Hospital)
今回の研修の説明とカナダ・エドモントン地区緩和医療体制の説明を受けた。カナダの医療改革(1995年)を受けて、コストのかかる急性期病院で看取っていた患者さんを在宅、ホスピスなどで看取る仕組みを作り患者さんのQOLをあげ、コストを削減するようにしたものがエドモントンの地域緩和医療体制である。このプログラムを立ち上げたブレラ医師は現在MDアンダーソンがんセンターで緩和医療プログラムに携わっている。緩和治療の必要な患者さんは多職種からなる緩和医療チームのコンサルテーションをうけ、それぞれに適した場所で緩和医療を受けることができる。このグレイ・ナン病院は症状緩和が難しい患者さんがさまざまなところから送られてくる病院でTertiary Palliative Care(高次緩和医療)を行っている。一方、Primary Palliative Careとしては在宅、あるいはホスピスで緩和医療の経験のある家庭医、緩和ケアナースなどが緩和ケアを行うことが基本である。急性期病院、がんセンターなどで緩和ケアの必要な患者さんが出た場合や、在宅、ホスピスでの症状緩和が難しくなった場合などにおいてはSecondary Palliative Careとしての専従の緩和ケア医4名、緩和ケアナース4名が往診、評価、治療方針のコンサルテーションを行い適切な施設を紹介する。各医療施設には緩和ケアのチームがあり適切な時期に適切なコンサルテーションが行われている。病院医師はすべて州のヘルスケアプラン所属のいわば公務員であるため、どこの病院で医療行為を行っても給与の出るところは同じである。日本で言えば大学病院と国立病院と国保診療所を掛け持ちしているようなものである。
その後3班に分かれDr. Robin L. Fainsinger (Clinical Director, Regional Palliative Care Program, Director, Tertiary Palliative Care, Division of Palliative Care Medicine)の指導の下でTPCU回診を行った。いずれも症状コントロールが難しく塩酸モルフォンの量も非常に多い患者さんが多かった。
この日は中四がんプロ多職種協同支出により市内のレストランでこれからお世話になる先生方、秘書、薬剤師、看護師などを招いてレセプションを行った。よく話し、よく笑い、よく飲み、お互いに親交を深めることができ、これからの研修の成功の予感を感じた。この日も温度は零下20度くらいで帰り道に耳を隠す帽子は必需品である。心地よい酔いに身を任せ眠りについた。
第2日
Royal Alexandra Hospital
北米でもっとも忙しい救急病院とのこと。医療施設は近接して存在し、急性期、がんセンター、老人医療、リハビリテーション、ホスピスなどの分業が確立されている。各医療機関は雪のため地下道で連結されており、その地下道のあちこちに講義室がある。患者さんの食事もこの地下道を通ってセントラルキッチンから各施設に運ばれる。患者さんは施設を移る際にはこの地下道を通って他施設へ運ばれている。
エドモントンプログラムを理解するにはカナダの医療制度を理解することが必要である。
カナダの医療保険は国民皆保険である。住所不定でなければ保険料40ドル・月を払っていればカナダの保険に入れる。カナダの保険では入院は無料、入院中の処方は無料。在宅になると薬代は自費。歯科はカバーしない。この項はいろいろと細かいことがあるようで、もう一度日本での復習が必要であろう。日本であれば入院させろという圧力が大きく困るであろうなと感じた。民度の差か。
Chaplainからspiritualityの話, psychologist から「うつ」の講義を受けた。いずれも病院内のスタッフとして大きな働きをしている。
第3日 ホスピス見学
Norwood Hospice Palliative Care Dr. Yoko Tarumi
(Director, Palliative Care Program / Royal Alexandra Hospital)
エドモントン地区100万人中、3000人が緩和医療を受けている。
体制;Grey Nuns Hospital(昨日訪問)、Royal Alexandra Hospital(800床、緩和新患500人/年)、University Alberta(600床、400症例/年の緩和医療患者)、Cancer Center(緩和40床、全体500床)、3つのホスピス、Home doctors。患者は必要な時に必要な所に行く(必ずしも同じ所には行かない)、患者レポートは関わったすべての医師に病状経過がその都度送られる、予後を見極めるのが重要、緩和治療医が主治医になるのは、Grey Nun HospitalのTPCUのみ(3人の医師)など。この医師は24時間オンコールで各施設からのコンサルテーションに備えている。
この日は帰りにスーパーマーケットによりお買い物。カラフルなフルーツが山盛りである。
3kgやせて帰ると宣言したのに変わっていない。ホテルでブートキャンプに入隊する。
第4日 クロス癌センター
専門分野ごとに講義と質疑応答を行った。
Janice Yurick(Physiotherapist)、Amy Driga(Occupational therapist)、Lisa(respiratory therapist、Pady(dietitian)、Teresa(social worker)各分野の専門職がどういう働きをしているかを講義。多くの職種が緩和チームに参加し、それぞれが各病院のスタッフとしての地位を確立している。日本でのスタッフ数の貧弱さ、予算の貧弱さが思い知らされた。
他職種による緩和カンファレンスの見学
誰が問診しても、誰が診察しても同じ結果がでるようにエドモントンスケールを活用する。この結果に基づいてチームによる医療を行うという基本方針が示された。チームにより情報を共有すること、介入の結果の評価ができることからもこのスケールの有用性が理解される。ぜひ中国四国においても活用していきたいと考えた。
また、教育に関してはカナダ政府の肝いりで作成されたLEAP(Learning essential Approaches to Palliative and End of Life Care)を用いて講義があった。これについてはたいへんよくまとまっているためぜひ導入をと考えている。
第5日 グレイ・ナン病院
Donna deMoissac, NP
(Unit Supervisor, Tertiary Palliative Care/ Grey Nuns Community Hospital)
・エドモントンインジェクターに関する講義と実習
0.5-1.5mlの注射薬を4時間ごとに自己注射するための簡単な器具。過量投与防止の安全装置はなく、日本では決して認可されないであろうと思われた。過量投与する人はいないかどうか聞いたがそんな人はいない、痛みのコントロールのため、自分のための器具だから正確に投与するとのことであった。カナダと日本の自己責任についての考え方の違い、言い換えればカナダの患者の成熟性が痛感された。
Dr. Robin L. Fainsinger
(Clinical Director, Regional Palliative Care Program, Director, Tertiary Palliative Care, Division of Palliative Care Medicine)
The Capital Health Regional Palliative Care Programについて、設立からのデータなどを示される。現在のエドモントンプログラムにおける中心人物
この日は早めに講義が終わったため、エドモントンモールへ見学に行った。巨大な商業施設で内部には波の出るプールもあり家族連れでにぎわっていた。外は零下の世界であるがここはウキウキハワイであった。
なごりつきないエドモントンの夜をホテルのラウンジで過ごし反省会を行った。周りでは何かの集まりでバグパイプの音がにぎやかであった。この中で将来の中国四国の緩和医療が語られたことは記録に、のこるかな?
第6日 帰国
バンクーバー経由で一路日本へ。カナダドルが高いことを実感。昔は米ドルの7割くらいだったのに。各自お土産を手に無事帰国の途に着いた。
まとめ
今回のエドモントンでは保険制度の違いがあるものの、切れ目のない緩和医療が地域において適切に行われていることが印象に残った。また、教育にかける熱意も大きく、われわれも大いに参考になった。
今後チームエドモントン07は中国四国の緩和を手始めとして広くこの組織を広げるべく活動していきたいと考えています。ご支援のほどお願いします。今回はエドモントンの皆様をはじめ、留守中御迷惑をおかけした皆様、事務の皆様のおかげでこのような研修が実現しました。心より御礼申し上げます。
岡山大学 松岡順治