John Hopkings Singaporeにおける研修報告
研修期間 | 2008年12月8日~12月12日 |
報告者 | 岡山大学 植野 高章(歯科医師) |
12月8日よりシンガポールにあるJohns Hopkins Singapore International Medical Centre(JHSIMC)にての研修に参加しました。私は、歯科医師、口腔外科専門医で岡大病院において顎顔面インプラント外科の専門医ですが、化学療法も含む口腔がんの治療も行なってきました。今回は、JHSIMCで行なわれている化学治療のあり方やそのシステムに興味を持って参加しました。
口腔がんは扁平上皮癌が多く、進展症例には化学療法を行なう場合も多いのですが、他の臓器の腫瘍では、どのような化学療法が行なわれているのか、また海外の医療現場では、どのように化学療法が行なわれているのかなど、いままで触れる機会がなかったので、これを機会に見学したいと思いました。
過去に岡大、徳島大学の医師・薬剤師の先生方参加しそれぞれの報告をHPでされていますので、私は歯科・口腔外科医の視点から報告したいと思います。
Johns Hopkins Singapore International Medical Centre (=JHSIMC)は、米国東海岸ボルチモアにある世界で最も有名な医療機関の一つです。JHSIMCのCEOのChang教授によれば1999年にシンガポール政府の要請で、世界で始めてのJohns Hopkinsとしての海外病院だそうです。Chang教授以下、総勢10名の医師が勤務しており、病棟患者の化学療法、外来(2カ所)の化学療法にあたっていました。特徴的なのは、日本のように○○病院というと、その中に他の病院がそのままはいることはないですが、このJHSIMCでは、シンガポール4大病院の一つTan Tock Seng総合病院(TTSH)の1階にJHSIMCの外来が、13階に病棟がありました。そこでJHSIMCのスタッフが患者を見ていました。
- 左
- Tan Tock Seng総合病院の全景、この中の13階にJHSIMC病棟が1階に外来クリニックがある。
SARSの時はこの病院が封じ込めの対応をすばやくおこない拡大を食い止めたとの事。 - 中
- JHSIMCのコアスタッフ、向かって右がChang教授。 大変に忙しい中、丁寧な説明といろいろな質問に答えていただきました。
- 右
- Chang先生の病棟回診風景。白衣を着ません。そのまま病棟も回診もクールビズでした。
特にUAE(アラブ首長国連邦)やインドネシアからの患者が多く、外国患者はJHSIMCで受け入れ、シンガポール市民はTTSHのパブリックの外来でJHSIMCのDr.が担当しているのがおもしろい仕組みだなと思いました。
また、医療の質と安全を維持するための定期的な医療ミスやインシデント(薬剤の投与ミス)やカルテの記載ミスなどを、JHSIMC医療スタッフが全員参加し実例の報告と再発防止対策をface to faceで議論することで医療事故への意識を共有化しており医療の質の安全の維持に努めている点には感心させられました。
病棟での加療患者は、悪性リンパ腫、肺がんの脳転移、肝臓がんの化学療法後に肺炎などの治療方針や診断を単科ではなく放射線診断医、外科医、病理診断医、Oncologistでチーム医療を実践しており、これがTTSHとスムースに連携している点や、オーダーリングをダブルチエックでペーパーベースのhand to handで行なわれていました。
日本では外国人患者の治療は、まれに経験することでありますが、JHSIMCでは、国家レベルでUAE(アラブ首長国連邦)と診療契約を行なったり、医療レベルの高さからインドネシア、インド、タイなどから多くの患者が受診する。言語のアシスタントを常時待機し、宗教的食習慣(ラマダン断食など)への配慮など、日本では考えられない患者習慣に適切に対応できている点に驚かされました。
病院内で売っていた日本でよく見る食べ物です。 豆乳ベースなのでサッパリサクサクとおいしかったです。 大人気で買うのに長ーい列でした。
またJHSIMCのChang教授は世界中の施設と共同研究を行なっており、JHSIMCの旧館に3人の臨床治験スタッフが常駐し、世界中から送られてくるデータと進行状況をまとめて毎週金曜日の朝に進行状況の確認をChang教授自身がスタッフと行なっていました。
敷地内にあるJHSIMCの旧館。ここを利用して事務職員が世界の臨床研究のデータを集計している。
建物の前の女性は案内してくださったNanaさん。
日本では、全ての病院にカルテの記載をはじめ電算化が進められています。しかし、ここJHSIMCでは、共有される必要なデータ(X線などの画像や、処方歴、採血結果、患者記録など)は電算化されていますが、オーダー(X線、採血、投薬変更)とカルテは電算化することでの不便さとそれを記録する人的資源の必要などが生じることで従来の手書きカルテで行なわれていました。これは私が兼任する米国UCLA口腔外科においても全く同じでした。日本のような完全電算化がよいのか、一部の電算データを効率的に使用するのがよいのか、今後に結果がでるように思います。
また、こうした化学療法患者・放射線治療患者への口腔内清掃への歯周科歯科医や一般歯科医の参加など、岡大病院と同じように口腔ケアの重要性は理解されていました。TTSHの地下に歯科部門(時間がなく見学できませんでしたが)や周辺歯科医、シンガポール国際歯科センターとの連携等に関心がもたれていました。次回はこうした口腔ケアチーム(口腔衛生、歯科衛生士など)が参加してもよいのでは?と考えました。
最後に、Closing meeting(いわゆる反省会?Feed back time)で、私が感じたことなどを話す機会があり、上述したようなことを話させていただき,今後の私のクリニックでの導入案などを討議しました。
また岡山大学での口腔外科とくに、私の専門の世界最先端の組み替え遺伝子BMP-2を用いたヒト顎骨再生医療について講演を依頼されましたので、米国UCLAとの共同研究や手術症例などをスライドで紹介させていただき、JHSIMCでもこうした顎骨欠損症例や骨転移へのビスフォスフォネート使用などの症例があることや、日本とシンガポールの口腔外科疾患の話題で盛り上がりながら4日間の研修を終了しました。
最後に、このような機会を与えていただきました田中紀章研究科長とAlex Chang教授に心より感謝いたします。多くの先生方や医療スタッフの参加を呼びかけたいと思います。
文責:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔再建外科学分野 歯科医師 植野 高章