John Hopkings Singaporeにおける研修報告
研修期間 | 2008年9月22日~9月26日 |
報告者 | 岡山大学 櫻間 一史(医師) |
はじめに
私は普段、食道癌術後患者を主に診療し、化学療法と緩和治療を担当していますが、ウエスタンスタイルのがん診療の見学経験はありません。今回、 がん診療における外来、入院のマネージメントと若い医師の教育システムを学ぶため、Johns Hopkins Singapore International Medical Centre (JHSIMC)にFD研修を受けてきましたので報告します。
シンガポールの医師制度
シンガポールはイギリスから独立しており、医師制度はUK medical systemを採用しています。USAではResident physician,Fellow Physician,Attend Physicianの順に上がっていきますが、UK systemではMedical Officer, Registrar, Consultantの順に上がっていきます。Medical schoolを卒業した後、medical officerとして6領域を研修すると、Registrarにステップアップして1つの専門領域を3年間研修し、consultantとなるための専門医試験を受けることができるそうです。
JHSIMCの概略
JHSIMCは約1000床のTan Tock Seng 国立病院(シンガポールでは2番目に大きな病院)の最上階13階に位置し、約20床のprivate inpatientベッドと下階に5床のpublic inpatientベッドを持っています。また1階にはprivate outpatient clinicを持っています。
JHSIMCでは6名のMedical Officer、1名のRegistrar, 4名のConsultant, 1名のCEO & Professorの12名で構成されています。Public clinicでは基本的にはRegistrarから外来担当ができるようになり、Medical OfficerもConsultantの代診を担当します。しかし、Private clinicではConsultantのみが外来担当できるようになっていました。
外来患者の60%はシンガポール、40%は他国から受診しています。他国の内30%がUAEから来ており、シンガポール政府とUAE政府が提携し、出入国の相談はInternational patient liason officer (IPLO)が管理し、通訳も兼ねています。UAEからの患者が多いため、7人の通訳がJHSIMCで働いています。以前はUAEの患者はUSで治療を受けていましたが、9.11テロ以降はビザ取得が困難になったため、シンガポールに来るようになったようです。
JHSIMCの若手医師教育について
若手医師は卒後3年目までの研修医であるMedical Officerと、Medical Officer研修終了後、単一コースで3年間研修するRegistrarで構成されています。前回のJHSIMC研修で堀田、野間医師らがRegistrarの教育制度について詳しく紹介されましたが、今回はMedical Officerの教育制度に焦点を絞って述べたいと思います。JHSIMCは6名のMedical Officerがいますが、それぞれ異なる3つのパートを担っています。 6ヶ月の研修で一通り経験できるようにローテーションするようにプログラムされています。
1つ目のパートはPrivate入院患者の管理とConsultantがPublic外来をしているときの代診の担当です。Private入院患者の管理は化学療法レジメ決定以外の業務を担当します。毎朝Professor, あるいはConsultantと回診し、問題点と解決方法についてディスカッションします。ディスカッションを通して自分に足りない知識をConsultantから得ていきます。普段は20人から30人の入院患者がいるそうですが、今回はイスラムのラマダンと重なっていたため入院患者総数は10名程度でした。ConsultantのPublic外来業務を代診することも仕事の一つですが、ひとり代診する毎に経過をまとめて治療計画し、Consultantのもとに出向き、総括して自分が立てた計画についての許可をもらいます。許可を得るには十分な準備が必要で、どのレジメにするか、そのレジメにする理由を述べることが出来なければ許可を得ることができなくなっています。Consultantに毎回許可をもらう過程で理論武装が必要になってくるため、この過程で理論構築がなされていくものと考えられました。
2つ目のパートはPublicの化学療法患者の管理を担当します。11階にpublic向けの化学療法用のベッドは5つあり、主にハイリスク患者を入院させて治療します。5名しか入院患者がいないのでかなり時間的には余裕があると感じましたが、基本的にはPrivate入院患者同様に回診所見をConsultantに報告して治療方針を決めていきます。化学療法レジメについてはConsultantが決定するので理論武装する訓練は養われませんが、実際の治療における合併症対策が鍛えられます。
3つ目はPublic各科から寄せられる癌患者の相談担当です。これはblue letter(依頼書が青いのでブルーレターとよんでいるらしいです)をもとに、ほぼ1日中院内を巡回します。 Blue letterが届くとカルテチェックし、要約してConsultantに提示し、午後にConsultantとともに回診します。そこではConsultantが化学療法の必要性を患者に説明しますが、レジメについてはConsultantが決定するため、見て学習する教育のように感じました。実際は全部で約40人がリストに挙げられているため全員を回診することはできませんが、特に初診と問題があったときは回診して問題点をリストアップし、Consultantにつなぐ仕事をしていました。この仕事は患者管理という点において研修医ながら大事なパートであると感じました。
JHSIMCのPrivate外来について
Private外来はConsultantのみが担当しますが、どの部屋もピンクとアイボリーを基調とした暖かみがある部屋でした。 化学療法室は12ベッドがあり、すぐ横の部屋に薬剤室とミキシング室が備え付けられており、処方箋発行からミキシング、患者への薬物投与がスピーディーで効率的であると感じました。診察時間もひとりあたり30分から60分かけて丁寧に説明していました。
まとめ
JHSIMCの教育プログラムは月毎の役割分担があり、時間単位で組み立てられているので、非常に効率的であると感じました。特に、外来診察の時は、診察後に計画を立てて、毎回毎回コンサルタントに今後の治療方針について相談し、議論を重ね、アドバイスをもらって問題点を解決していく姿は印象的でした。これは日本のある期間に目標を達成できたかどうかだけを判定基準にするのと大きく異なり、プロセスを重視していると感じました。毎回コンサルタントと議論を重ねることによってタフな理論構築がなされていくものと考えられました。帰国日にF1開催と重なり、道路封鎖や交通渋滞とちょっとしたハプニングもありましたが、今回の研修は、効率よく見学プログラムを組んでいただいていたため、イギリス方式の教育システムに沿ったJHSIMC流の若手医師育成プログラムを短期間に効率よく見学でき、非常に有意義でした。
最後に
本研修に参加する機会を与えて下さった中国・四国広域がんプロフェッショナル養成コンソーシアムの運営スタッフとJHSIMCのスタッフの皆様に心より感謝いたします。