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FD研修

John Hopkings Singaporeにおける研修報告

研修期間2008年6月16日~6月27日
参加メンバー岡山大学 堀田 勝幸(医師)、野間 和広(医師)
愛媛大学 香川 由美子(看護師)
報告者岡山大学 野間 和広

今回我々は、シンガポールにあるジョンスホプキンス・インターナショナルメディカルセンター(JHSIMC)にてFD研修を行ったのでここに報告します。今回のチームは、愛媛大学より香川由美子先生、岡山大学より堀田勝幸先生そして私、野間和広の3人で成る混合チームでした。

研修目的は、

  1. JHSIMCにおける先端の癌診療の内容の把握
  2. JHSIMCにおける初期研修終了後の若手医師に対する癌専門教育システムの把握

であり、今回、特に2.の“若手医師に対する教育システム”に我々は着目し、研修を行いました。

[1] JHSIMCではどのような診療体制をとっているか

JHSIMCは癌治療専門の約20床の病院で、シンガポールの大きな総合病院の一つであるTan Tock Seng病院の最上階13階に位置しています。いわゆるHospital in Hospitalの形をとっています。基本的に病棟はPrivate inpatient (入院患者)です。外来も病院内の一角に在ります。外来の中にはベッドを設け外来化学療法を実施しています。外来では医師(Consultant)がそれぞれの患者を診ています。Tan Tock Seng病院は、約1000床程のPublic HospitalでJHSIMCの医師たちはそちらでも化学療法部を担当し外来も行っています。一般病棟との関わりは、基本的には院内紹介やTumor boardに参加するアドバイザー的な役割ですが、その他に彼ら自身も5床のベッドをPublic Hospital内に持っています。

JHSIMCの医師たちがある程度Public healthに関しても外来や一般病棟で患者さんを担当する事で、Tan Tock Seng病院との良い連携を保っています。しかしながら基本はPrivate inpatientで、UAE等の中東アジアや東南アジアからの富裕層の患者を診ることが主な役割です。

プライベート外来の入り口
プライベート外来の入り口

[2] JHSIMCの構成

  • Chief Executive Officer (CEO) and Medical Director(Professor of Oncology, Johns Hopkins University)
    1人:Dr. Alex Chang
  • Consultant (Assistant professor)
    4人:Dr. Lopes, Dr. Bharwani, Dr. Eliane, Dr. Troy
  • Registrar (as Fellow in US)
    1人:Dr. Daniel Tan
  • Medical officer (as Resident in US)
    6人

の計12人で構成されており、いわゆるスタッフであるConsultantは、一人を除いて皆USAでOncologyのトレーニングをうけて来た医師です(1名はUKにてトレーニング)。

[3]Registrarはどのようにトレーニングをうけているか

1)ガイドライン

シンガポールでは、基本的にMedical officer もRegistrarもMedical Councilに登録されており、そこでプログラムが調整されています。JHSIMCとしてはそのMedical Councilに承認を得る事で初めて施設としてRegistrarをむかえることが出来る仕組みになっています。従ってJHSIMCとしては独自の良質なプログラムを用意し、その認定を受けられるように努力しています。

シンガポールでは3年のRegistrarの後にOncology board試験(専門医試験)を受ける事が出来ます。その規定に標準を合わせつつ、3年間のプログラムを組むことになっています。プログラムは基本的にはESMO (European Society of Medical Oncology) に準じています。

2)日常診療

病院内には、大きく分けてPrivate inpatient (プライベート入院患者)、Public inpatient (一般病床入院患者)がそれぞれのConsultantの名前で入院しています。また、他科の入院患者で院内紹介を受け重複して診療している入院患者さんもいます。その3種のすべての患者さんを、中間管理職としてみているのがRegistrarです。多い時には30人以上になることもあります。各パートにはローテーションで割り当てられたMedical officer (Resident、以下MO)が常時患者さんを診ているので、そのMOの教育及びConsultantとの化学療法における方針の話合いを持ちます。病棟回診をConsultantと行い、また外来も週3~4回の頻度でConsultantと共に行います。2年目からは外来も一人で週1回持つようになり責任を持って直接患者さんを診るようになります。即ち、RegistrarたちはMedical officerの教育と、Oncologistとしてのスキルアップの2点をConsultantに教育を受けながら同時にトレーニングされているわけです。

3)研究

一般診療のトレーニングを目的とする研修医時代と違い、臨床的、専門的トレーニングを目的としているRegistrarにとって、特にOncologyの分野で研究を行うことは非常に重要で、彼らはRegistrarの期間中、臨床研究も併行して行っています。毎午後、一定の時間がリサーチの時間に割り当てられています。

研究はカルテベースの臨床検討や前向き臨床試験のデザインや実施も行います。そう言った研究のアドバイスもProfessorであるDr. Changの役割となっており、とても専門的なところまで追求してDiscussionをしています。
 要約しますと、JHSIMCでは、MOの教育をRegistrarにまかせることにより、癌患者さんの化学療法をマネージするリーダーとしてのスキルアップを図っています。また同時に、Registrar が同時にOncologyの専門的な知識(判断力)を身につけ、さらに実行力を養うような仕組みになっています。

病棟への入り口
病棟への入り口

目標として、

  1. Medical officerにがん患者の心身の病状の把握を教育することにより自己教育もはかる
  2. Medical officerにがん患者の心身の病状の管理を教育することにより自己教育もはかる
  3. がん患者に対して最良の治療選択する事が出来るようになる
  4. 抗癌剤治療特有の副作用に対する適切な支持療法が出来るようになる

を項目として教育されます。

[4]実際のRegistrar :Dr. Daniel Tan

JHSIMCについても、そして我々のプロジェクトにとっても重要人物であるDr. Daniel Tanについて少しレポートしようと思います。彼は2000年卒のMD(UKにて)です。3年間のMedical officerおよびMRCP(研修医が必ず受け、合格しないといけない実地試験:UKの試験に準ずる)を終了の後、軍隊へ入隊(シンガポールでは義務になっています)、その後NCC (National cancer centre)のRegistrar program of oncologyへ進み、そのプログラム内のローテーションとしてここJHSIMCへ半年の研修に来ています。彼はこれから3年間の研修の末、Oncology Board試験を受けることになっています。そこでようやく晴れてConsultant (いわゆるスタッフ)として活躍できるようになる予定です。彼は、上記の通りMedical officerとConsultantとの中間管理職的な役割をしつつOncologistとしての腫瘍学、治療学教育をProfessorや各Consultantから受けます。毎日Blue letter(院内紹介:基本的に各Consultant名義で受ける)があると各病棟に赴き、Medical officerを教育しつつ治療方針について自分なりのアセスメントを考えます。一番の窓口は医師です。夕方になると、各Consultantと、病院全体の担当患者及びBlue Letter Patientsの一例一例について報告および治療方針を病棟にて話し合います。基本的にはその際にConsultantとともに患者のところに同行し、スペシャリストとして関わります。そのようにしながらOncologistとしてのClinical Skillを磨いて行きます。その他、日中に時間を見つけてはResearchを進めています。ただそのResearch Programは系統だった物では無いそうで、その事に関してはDaniel的には不安に思っているとのことでした。今現在のDanielとしてはOncologistとしてPhD教育をどう受けるかが一番頭を抱えている問題です。日本であればそのままPhdコースに進みますが、彼には2年半の徴兵期間がありました。年齢的にもどのタイミングでPhDコースに入るのか、もしくはPhDコースを取らずにそのまま臨床医としての歩みを進めるべきか。どちらをとるべきか、彼は一生懸命考えています。がん専門のプロフェッショナル養成の大きな課題である“OncologistとしてのClinical SkillそしてAcademic knowledgeとしてのPhDという教育の整合性をどのように保つか”が、やはりここシンガポールでも難しい問題であるようでした。現在彼は、UKに研究留学することも視野に入れているそうです。

彼に限らずシンガポールではUKで教育を受けた医師が多く、MDをUKで取得しその後シンガポールへ帰国する場合や、あるConsultantのようにMedical officer、MRCPまでUKでトレーニングし、その後帰国してRegistrarやConsultantとして活躍する人も多くいます。USAの医学教育がある程度の影響力を持って浸透している日本からすると不思議な感じがしますが、もともと英国領であった風土を考えればなるほどと納得できます。それほど英国の教育が根付いた国であると再認識させられます。ただ、彼らもUSAの医学教育、医学トレーニングに無関心ではありません。英語が堪能な彼らにとっては、ポストとその道があれば行ってみたいと考えているようです。

シンガポールビル群
シンガポールビル群

Tan Tock Seng病院内JHSIMCから見た光景

[5]今後の展望 Registrar training

シンガポールでは、Registrar Programは基本的にはGovernmentの直系であるMedical Councilによって統括されており、現在では3施設でしかOncology Registrar Programが認定されていません。現在JHSIMCではRegistrar1名の受入が認定されています。Registrarの導入や増員は組織としても医療の質を上げ、さらに彼らの行うClinical Researchも結果として組織としての客観的な評価にも繋がり、JHSIMCとしても興味のあるところです。あと1人Consultantを増やすことが出来れば、Medical Councilからもう一人Registrarの枠が与えられるそうです。彼らにやる気が在れば、JHSIMCには十分なClinical researchを行うだけのハード(患者数)が在り、また教育面でも充分にサポートする事が出来るとDr. changも意欲的です。日本においても、初期研修を終った若手医師が臨床に加わりながら、質の良いカリキュラムとトレーニングを受けることが実現すれば、彼らのスキル向上にとっても患者さんへの治療にとっても非常に効率の良いシステムになるであろうと思いました。そのことは、我々の“がんプロ大学院教育”を考える上で非常に参考になる考え方であり取り入れることのできるシステムもあるように感じました。

河川沿いの光景
河川沿いの光景

シンガポールビル群とレストラン街(アジアン中心)

まとめ

JHSIMCの教育プログラムは、時間に区切られた非常に効率的なプログラムであると感じました。達成項目ばかりをリストアップし、ある一定の期間での達成評価をするだけのプログラムが多いのですが、ここのプログラムはRegistrarの日々の時間スケジュールを明確(あくまでも目安としての)にし、研究および臨床をうまく織り交ぜている教育システムでした。Oncologistとして必要とされる研究と十分な臨床経験の二本立ては非常に難しいことですが、より質の高いがん治療のプロフェッショナル育成にはとても重要な要素と考えられます。JHSIMCのシステムでは、若手医師が、研究をしながらもBlue Letter(院内紹介)を絡めた臨床との関わりを継続的に持ち、スキルを保つと同時に新たな知識の集積を積んで行きます。このようなJHSIMCのシステムに鑑みると、我々が現在取り組んでいる“がんプロ大学院”としては、がんの専門的な博士号コースを大黒柱とする“研究→PhD育成プログラム”に臨床の経験を効率的に織り込む独自性を確立する事が出来れば、より効率良く“がんプロフェッショナル”を世に送り出す事ができるのではないかと感じました。現時点では、一つ一つそういった明確で細やかなプログラムを作成し、システムとして展開して行く事が大切であろうと思われました。

最後に、本研修に参加する機会を与えていただいた中国・四国広域がんプロフェッショナル養成コンソーシアムの皆様、プログラムの運営をしてくださった皆様、そしてJHSIMCの研修を支えてくださった現地の皆様に心より感謝いたします。

マーライオンとシンガポールビル群
シンガポールの光景

マーライオンとビル群

河川沿いにあるレストラン街
河川沿いにあるレストラン街

(ボート・キー)

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