John Hopkings Singaporeにおける研修報告
研修期間 | 2008年2月10日~2月14日 |
参加メンバー | 徳島大学 石田 竜弘(薬剤師)、兼松 貴則(医師) 岡山大学 高原 陽子(看護師)、門野 亜希(看護師) |
報告者 | 徳島大学 石田 竜弘 |
JHSにおける診療・調剤・投薬現場の視察
JHS薬剤部は薬剤師2名とテクニシャン3名からなっている(全て女性)。基本的に外来に3名(うち薬剤師1名)、院内に2名(うち薬剤師1名)の布陣からなっている。薬剤師の地位は相対的に高く、夜勤は皆無であり、また午後7時以降の業務は完全に拒否している。これはもともとシンガポールの年間薬剤師供給数が少なく(現状は120人、最近まで60人)、さらに英語を母国語とするため製薬企業へ就職するものが少なくなく、慢性的な薬剤師不足にあるためであると考えられる。このような状況から、国がPharmacistの基本給を月S$500あげたようであるが、それでも薬剤師として働くものが増えたりしなかったようである。テクニシャンは一般に専門学校あるいはカレッジを出たものがついているようである。基本的に、薬剤ミキシングや薬剤を切り分け、数量をあわせたりという基本的な作業に従事し、最終的に薬剤師がそれらを確認(サイン)するというシステムになっている。単純作業をしない薬剤師は、その分医師の回診に同行したり、患者情報やカルテなどを精読することを通じ、医師の投薬方針に対する疑義を出したり、場合によっては処方変更を提案したりしている。また、高カロリー輸液の組成決定、infection control時の投与量変更、緩和ケア時の薬剤選択など、ケモセラピーだけでなく広範囲にわたって大きな権限を持っていた。
JHSはがん専門の病棟であり、扱う患者は全てがん患者である。よってがんを中心とした医療のみが行われており、薬剤部も“がん”を中心とした薬剤のみを取り扱い、比較的シンプルな状況にあった。チーフ薬剤師はまだ30歳であるが、JHS立ち上げ時から参加し、彼女一人で種々のガイドラインを参考にしながら薬剤部を立ち上げてきている。よって、全てを把握すると共に、医師・看護士からの信頼も厚く、欠くことのできない人材となっている。極めて理想的な状況にあり、本邦薬剤師の多くが求めている環境下にあるが、JHSの成り立ちと本人のパーソナリティーに負うところが多分にあり、シンガポールの全ての薬剤師が同様の権限を持ち、同様の環境下にあるのか判断がつかなかった。
JHSは健康保険外の診療・治療を行うため患者の同意さえ得られれば、世界中のどの薬剤でも使用可能な状況にある。よって薬剤師は数多くの論文や資料を読破し、必要に応じて新薬の情報を医師や看護士、サポートスタッフに発信する責務を負っていた。よって勤務時間は比較的短いが、帰宅後に自主的に学習しているようであった。また、シンガポールで認可されていない薬剤の代行輸入手続き、価格交渉も薬剤師が行っており、薬剤師の職責が日本とは根本的に異なると思った。また、共通語が英語であり、論文の理解も交渉事も何ら問題なくこなしていた。日本の薬剤師がさらに職能を広げる上で、言語の問題が存在する事に気がついた。
JHSの薬剤師はがん専門薬剤師ではないが、がん専門病棟に所属していることから、結果としてがんに特化した活動している。がん化学療法を推進する上で、抗癌剤の管理、保存、ミキシングなどに精通することは当然であるが、premedication、follow up、緩和ケア、infection controlなど、がん治療に附随した部分への深い理解と経験がなければ務まらないことを強く実感した。
JHSでは外来で癌化学療法を受ける患者は一日に10名程度、入院患者は20人程度であるがケモセラピーを受けるかどうかはレジメンに依存している。よって調剤・ミキシングも比較的ゆったりと進められており、誤投与・誤処置のリスクは比較的少ないように感じた。しかし、時に重複することもあり、その場合には戦場のようになるが2人の薬剤師がダブルチェックすることで事故を防いでいた。明確なガイドラインを自分たちで確立しており、またこれを遵守しようとする態度が明確であった。シンガポールはアメリカ式であり、全てサインによりチェックが行われており、サイン=責任を負う、という事が広く浸透しており、テクニシャンもサインをもらうまでは自己の責任、薬剤師もサインしたものが病棟にあがるまでは自分の責任、という感覚が見て取れた。日本にはそぐわないかも知れないが、責任を明確にすることで無用な事故が減るのではないかと感じた。(徳島大学石田竜弘准教授の報告から抜粋)