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FD研修

M.D. Anderson Cancer Center における研修報告

研修期間2011年1月17日~1月20日
参加メンバー岡山大学 笈田 将皇(医学物理士)、勝井 邦彰(医師)
高知大学 刈谷 真爾(医師)、鈴木 公彦(診療放射線技師)
徳島大学 原 康男(診療放射線技師)、富永 正英(診療放射線技師)、西原 貞光(診療放射線技師)
山口大学 沖本 智昭(医師)
報告者徳島大学 原  康男、富永 正英、西原 貞光
研修目的Radiation Therapyの技術習得
研修内容実際の治療の見学、習得

1日目(1月17日)

16:00~18:00 Proton Therapy Center見学

プロトンセンターの見学をした。

見学の前に1時間ほどProton Therapy Centerの概要の講義があり、陽子線の特徴等を理解することができた。その中でも線量分布が印象的であり、特に全脳・全脊柱の後方1門での分布が良く、通常のX線では実現できない分布であった。

実際の見学では、照射ポート、治療寝台、付属品等を見学し、患者セットアップの手法を学ぶことができた。また、通常は入れないガントリ裏側まで入れてもらい、ガントリ自体の大きさに圧倒された。

徳島大学でも陽子線の装置導入の構想もあることから実際に目で見ることで多大な情報が得られ、維持費も莫大になると納得した。実際の運用のノウハウなどは別途の研修が必要であると思われる。

陽子線操作室
陽子線操作室
陽子線 上方もしくは側方タイプ
陽子線 上方もしくは側方タイプ
陽子線 ガントリタイプ
陽子線 ガントリタイプ

2日目(1月18日)

9:00~18:00

M.D. Anderson Main Campusにおいて臨床治療の見学

AM

主に頭頚部の治療をする装置を見学した。

機種はIX、位置決めはOBIによる2D手動マッチングであった。全例IMRTによる治療であった。Therapist2名がついていたが、実際に照射に携わるのは1名ずつであり、患者毎に交代する体制に見えた。

全例IMRTでの治療という面では先をいっているが、実際のセットアップや位置照合法、ポイントなどは当院における治療の方が高精度であると思われた。

PM

主に縦隔・肺を治療する装置を見学した。機種はTorilogy、位置決めは主にOBIでこちらも手動マッチングであった。

途中Jawが動かなくなり院内の整備担当者を呼んだ。即修理となるが、この対応の速さはメーカを呼ぶ日本では考えられないことであった。15分は待つが、それ以上修理に時間がかかる場合、別装置にて治療をするとのことであった。ビームデータの移し替えなどはしない(どの装置も同じビームが出るように調整している)とのことであるが、治療器ごとのビームデータに合わせ込む日本では考えられない対応であった。

全例IMRTであった。思ったよりセグメント数が多く複雑なプランであった。

3日目(1月19日)

9:00~18:00

M.D. Anderson Main Campusにおいて臨床治療の見学

AM

主に縦隔・肺を治療する装置を見学した。機種はIX、位置決めは主にOBIにて手動マッチングであった。CBCTにおける位置決めを見たかったが、機会は無かった。

全例IMRTでDMLCによる治療法であった。各セグメントは細かく、1MUのセグメントも存在した。線量率は600MU/min、かなりシビアなプランで照射している感じがしたが、実際の患者に対するセットアップやプランの把握などはしていないと思え、プランと実際の相違が大きな問題であると想像された。

ガンマナイフを一例見学した。実際に思っていたよりコンパクトな装置であった。Therapistは照射開始ボタンを押さず、セットアップ及び監視しStopさせる業務となっていた。腫瘍が大きいため2アイソセンタによるプランが立てられており、治療完了までの動きは全て自動であった。

ガンマナイフ
ガンマナイフ

PM

主に電子線治療をするリニアックを見学した。機種はIX。全身電子線のBoost照射を行っていたのが印象深かった。立位における照射によるUnder Dose部位のBoost照射であるが、ビルドアップを取るアクリルやボーラスによる余分部位への遮蔽など時間をかけて緻密に照射していた。

物理士に少しだけ話を聞く時間があった。IMRTの検証において線量分布評価は1断面のみ、ポイント線量測定も1ポイントのみ。使用機器はマップチェック、評価も我々が規定するものより緩く設定されており、実際の照射の際にも感じた無理なプランがすり抜けているようであった。もともと日本とは線量分布の検証スタイルや患者線量の投与についての意識の違いが関係していると思われるが、日本とは違った感覚を受けた。

電子線については治療件数が多く、RTPSにて線量分布の評価を行っている。日本では主に実測による線量評価で行い、正確な線量分布は期待していない。実際はRTPSへの電子線のビームデータのコミッショニングがどのくらいのレベルで達成されているのかを確認できれば良かったと思われる。

リニアック(Trilogy)
リニアック(Trilogy)
リニアック(IX)
リニアック(IX)

4日目(1月20日)

9:00~18:00

Mays Clinicにおいて臨床治療の見学

AM

乳腺および前立腺を治療する施設において研修を行った。機種はIX、ほとんどが乳腺の患者であり、前立腺は午前中に於いて2名であった。

乳腺においては非IMRTで電子線とX線をMixしたプランになっており、肺野をできるだけ救うよう計画されていた。また電子線も6MeVおよび9MeVのMIXで分布を均一にしていた。RTPSの線量分布も見せてもらったが理想的な分布を示していた。

X線と電子線のオーバーラップは3mm重ねあわせで計画されていたが、セットアップを見ている限りではプラン通りの実現はかなり難しいように思われた。対向ビームで後方からのビームにおいても位置照合の撮影を行っていたが、その門毎で位置合わせするため、トータルの整合まで考えては照射実施していないと思えた。

日本ではX線のみにて接線照射で行っているが、電子線とのMixed-Beamも視野に入れて計画も考慮すべきかもしれない。しかしながら、繋ぎ目変更や日々の乳腺容積変化など大変な部分もあり、マンパワー的に対応が難しい一面も想定された。

PM

午前と同様の内容を別治療室で研修した。機種はIX。

骨盤部治療においてOBIによる位置決めを行っていたが、2cm以上のズレが生じた画像が出てくることもあり、体表マーカーでのセットアップに疑問が持たれた。OBIによる2D骨マッチングを手動で行っていたが、IMRTの照射をするには我々の意識との違いが顕著であり、日本のセットアップ精度が高いと思われた。

左乳腺の照射においてはRPMを用いた息止めにて照射を行っていた。(心臓を照射野から外す為)コーチングの問題もあるが、RPMでの息止めにも再現性があり有用だと思われた。線量率600MU/min、バーチャルwedge15°にて片側20~25秒程度、一回の息止めにて完了していた。

当院にもRPMが入り運用前とのこともあり、実際使用を目にできたのは大きかった。

各患者30分枠を基本にスケジューリングされているため、余裕のある時間配分で照射実施が可能であるが、日本での現状を考えるとシステムの組み直しが必要になると思われた。

まとめ

1.研修先において学んだこと

今回の研修先であるM.D. Anderson Cancer Center(MDA)は20台を超える放射線治療器を所持しており、世界最大規模のがん専門医療機関である。一般に欧米の放射線治療に携わるスタッフとしては多職種、多人数で行われているが、M.D. AndersonではRadiation Oncologist、Physician’s Assistant、Medical Physicist、Dosimetrist、Radiation Therapistの構成で行われている。これらの職種は日本と異なっており、単純に比較することは非常に難しい。我々はRadiation Therapistの職について学んできた。Radiation Therapistは日本語に直訳すると照射技師として訳され、日本の診療放射線技師とは異なる。日本の診療放射線技師は職の範囲で言うと前述したMedical Physicist、Dosimetrist、Radiation Therapist(RT)の業務範囲である。MDAのRTは患者のセットアップのみに専念し照射を行う。MDAでは一部の線量分布を見たが、非常に複雑なビームを組み合わせて行っている。そのため一人の患者のセットアップの時間は20?30分程度を有する。現在の日本の施設でこの時間をかけて行うと治療器の数やスタッフの人数が足りないのが現状である。この背景には米国と日本の診療報酬制度の差が考えられる。

日本では歴史的に欧米の複数職間でカバーされている業務が診療放射線技師に集約的に網羅されている。そのため、少ない診療放射線技師の数で臨床が成立しているのかもしれない。しかしながら、日本においても今後は技術革新が進むにつれて、米国のように診療放射線技師の中で専門職としての役割分担が必要になってくるように思われる。

2.それをどのように教育に生かすか(いつまでに、どのような形で、どこまで)

今回の研修で学んだセットアップの技術については、今後2、3年の間に大学院教育、各種学会、地域の社会人教育において講義、学会発表、講習会を通じて貢献したいと考えている。

3.それをどのように臨床に生かすか(いつまでに、どのような形で、どこまで)

日本の医療職種の制度、診療報酬の制度が米国と異なるためMDAで学んだ治療を直ちに臨床に応用することは困難であるが、IMRTやMixBeamなど高精度な治療方針は症例により選別して実践する必要がある。また、治療器は多種多様であり、照射技術は治療器の性能に依存している。よって、これからの治療においては今回の研修を参考にして、より高精度な治療を行うことを目指すことが重要である。また、米国とは患者一人にかけるセットアップ・照射時間と人員、治療器の性能が本学の現状と異なっているために全ての症例にフィードバックさせることは難しい。そのため、本学に見合ったシステムで実践していきたいと考えている。

4.それを実行するための方策

日本の医療水準を高めるには卒後教育が重要なポイントであると考えられる。医療スタッフの卒後教育は学会等で広義な意味において個人レベルで行われているのが現状だと考えられる。効率よく卒後教育を行うためには各種学会、職能団体、大学病院が大学院と連携することが重要であると考えられる。また、米国のシステムをそのまま取り入れることは困難であり、日本独自のシステム構築が重要である。

文責 徳島大学 原 康男 
富永 正英
西原 貞光
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