ESTRO School研修報告
研修期間 | 2016年3月14日~3月18日 |
参加メンバー | 岡山大学 青山 英樹(診療放射線技師/医学物理士)、笈田 将皇(医学物理士) 徳島大学 富永 正英(診療放射線技師)、坂東 良太(診療放射線技師) 広島大学 齋藤 明登(放射線治療科 病院助教) |
報告者 | 岡山大学 青山 英樹、笈田 将皇 |
この度、海外FD研修としてESTRO研修コース(平成28年3月14日~18日)に参加してきたので、その概要を報告する。今回受講した研修コースは、ESTRO(欧州放射線腫瘍学会)が主催する複数の研修コースのうち、粒子線治療(Particle Therapy)に特化した企画であった。本コースは5日間設定され、かなり過密なスケジュールで講義や施設見学が行われた。本研修は中欧に位置するクラクフ市(ポーランド)のAndel’s Hotel内で行われ、市内病院施設での見学を除き、ホテル内で大部分の講義がなされた。
講義内容は、研修コースの設定通り、粒子線治療に関するものばかりであり、加速器(サイクロトロン、シンクロトロン)の管理、粒子線(陽子線および炭素イオン線)の生物学的な影響、治療計画の考え方、臨床成績などについて、主にX線治療と対比しながら解説がなされ、講義ごとに10分程度の質疑応答及び議論がなされた。特に、重粒子線治療(炭素イオン線)については、日本が先駆的な臨床応用を実践しており、頻繁に日本の状況と比較した議論が展開されていた。研修2日目では、施設を見学する機会が設けられ、貸し切りバスで参加者全員が移動し、クラクフ市外にあるポーランド初の粒子線(陽子線)治療施設を2~3時間程度内覧させて頂いた。
研修プログラム
上記プログラムと共に、具体的な内容を以下に示す。
放射線生物学の見地からみた粒子線の細胞作用機序、陽子線・イオン線の物質に対する物理作用機序、加速器の原理、粒子線照射技術の種類(Passive、Scanning)、小児がんでの粒子線治療の役割、重粒子線の役割と臨床プロトコル、重粒子線の生物学的な特性(計算モデル)、線量プロトコルの考え方、放医研(日本の施設。放射線医学総合研究所)での臨床プロトコル、臨床疾患と治療計画(脳腫瘍、眼科疾患、CNS、頭頸部、肝臓、前立腺、乳房、Chordoma、Melanoma)、照射技術(呼吸同期)、急性障害、晩期障害、再照射、加速器の品質管理(QA/QC)、現在実施中の臨床トライアル、次世代の粒子線治療技術。いずれの内容も先駆的施設での報告を題材として講義がなされた。
過去の海外FD研修で参加した米国の放射線施設見学やセミナー参加では、大部分がX線治療に関するものであり、成果として日本(岡山大学を含む)との比較、改善に非常に有益であった。しかし、粒子線治療に関する内容はこれまで国内外の研修においても詳しく知る機会がない状況であった。また、本年より岡山大学では岡山県内関連施設とともに粒子線治療を共同運用しており、本研修で学んだ知見は地域貢献を通じた人材育成におけるフィードバックとして期待される。
一般に欧米の放射線治療システムは多職種、多人数(放射線腫瘍医、放射線治療専門看護師、医学物理士、線量測定技師、照射技師、治療計画CT技師、事務員など)で構成されているため、日本の状況とは大きく異なることが知られている。特に粒子線治療ではX線治療に比べて、加速器の運用や線量評価技術など非常に高度な知識・技術が要求されており、医学物理に深く精通した人材が必須な状況となっている。
国内では、今後X線治療から粒子線治療へのパラダイムシフトとともに治療施設の増加が見込まれるが、こうした施設における高度専門職の人材難が当面続くことが予想されており、がんプロの活動を通じて医工連携を深めながら、医理工学分野での人材育成を図る必要があると考える。
また、本海外FD研修を契機に岡山大学病院、津山中央病院、岡山大学(医歯薬学、保健学)間で意思疎通を図れるよう、継続的な大学院生の受入れと研究会等を通じた交流を図ると同時に、臨床トレーニング(OJT)等、効率的に連携が可能な環境を構築したいと考える。地域病院では、診療放射線技師の資格を生かした専門職制度が徐々に認められつつあり対応が進んでいる。一方で、大学病院を中心とする確立されていない技術の医療応用では研究要素が強く、新型装置の開発や粒子線治療に関わる先進的な施設では研究(プロジェクト)型の専門職も必要とされており、研究応用力の高い理工学系出身者、博士後期課程進学者および博士号取得者も一定数必要であると考えられる。岡山大学としては、異分野融合領域を中心に多様性を重視し、臨床および研究分野で必要とされる人材を効率的に育成できる教育システムとキャリアパスを構築するとともに、臨床教育面においては、地域での指導者として高度教育を担える人材育成を同時に行うべきであると考える。
本研修を行うにあたり、FDワーキングの皆様をはじめ、事務の皆様のご尽力があって、このような研修が短期間のうちに実現しました。心より御礼申し上げます。
文責 岡山大学大学院保健学研究科 笈田 将皇