がん研究会有明病院における研修報告
研修期間 | 2016年2月1日~2月5日 |
報告者 | 高知大学 牛若 昴志(医師) |
1日目(2月1日)
8:00~19:30
手術見学
- 子宮体がんに対して、腹腔鏡下準広汎子宮全摘術・両側付属器切除・骨盤リンパ節郭清術
- 子宮頸部高度異型性に対する下平式円錐切除術
治験kickoff会
MSDから「PD-1抗体」のP2試験のkickoff説明会を見学した。
2日目(2月2日)
8:00~9:00
婦人科
9:15~ 遺伝子診療部
遺伝子診療部の部長である新井先生と挨拶。その後、カウンセラーとの当日外来患者の確認カンファレンスに参加。
遺伝外来を見学した。
17:00~ 3科合同遺伝カンファレンス
遺伝子診療部・婦人科・乳腺科の合同カンファレンスに参加。外来運営や患者の情報を共有。遺伝検査や学会などの最新情報の提供。
3日目(2月3日)
8:30~17:00 手術見学
- 卵巣がんに対する試験腹腔鏡
- 子宮体がんの腹腔鏡下準広汎子宮全摘術・両側付属器切除
17:00~17:30 病棟見学
婦人科のみで90床あり、診察室や処置室などを見学した。
18:20~ 竹島部長のミニレクチャー
- ・JO29569の速報
- ・子宮頸がんⅣB期+再発に対するBevの安全性追加研究(TP+Bev)
- ・円錐切除後の再発・再燃症例の検討
4日目(2月4日)
9:00~12:00 馬屋原先生の外来見学
紹介初診・術後検診・術前患者などを含む外来を見学。
13:00~17:30 手術見学
- 巨大卵巣腫瘍(境界悪性疑い)に対する単純子宮全摘術・両側付属器切除・部分大網切除
- 腹膜がんに対する術前化学療法後のIDS(単純子宮全摘術・両側付属器切除・大網切除)
17:30~19:30 キャンサーボード
婦人科・病棟看護師・病理医・放射線治療医が参加し、方針を相談する症例に関してカンファレンスを見学した。これ以外にも全科のキャンサーボードが開かれている。
まとめ
1. 研修先において学んだこと
1)腹腔鏡下悪性腫瘍手術
婦人科悪性腫瘍では、腹腔鏡手術が先進医療として普及してきており、その先駆的な治療を行っている施設で見学をさせて頂いた。良性腹腔鏡手術は当科でも行っているが、悪性腫瘍を腹腔鏡で扱う際の開腹手術に劣らない根治性の担保や悪性腫瘍が飛散しないような工夫などを実際に行っている状況を見学した。また、婦人科開腹手術でも日本有数の施設であり、その技術面・指導面の体制を見学した。
悪性腫瘍の腹腔鏡は先進的な治療であるからこそ、その普及に於いて開腹に対してデメリットが生じてはいけない。そのために細心の注意を払い、術式に関しても工夫がなされていた。また、内視鏡技術認定医*と婦人科腫瘍専門医の両資格を保有する医師が悪性腫瘍腹腔鏡手術には必ずメンバーとなっており、根治性と安全性が担保されていた。高知県には婦人科腫瘍専門医が不在であり、そのような環境はとてもうらやましく感じた。
*日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医
2)悪性腫瘍の遺伝子診療部
がん研有明病院では遺伝子診療部が独立して存在しており、医師1名・カウンセラー4名・看護師1名で構成されていた。遺伝カウンセリングという患者にとってはハードルの高い外来受診だけではなく、カウンセラー中心のプレカウンセリングといった情報提供の場も設けており、遺伝性悪性腫瘍のなんたるやや外来受診のメリット・デメリットを患者が聞きやすい状況を作っていた。悪性疾患の遺伝外来を行う上では患者に対する情報提供に時間を要することが考えられ、それらがプレカウンセリングなどによって負担されれば、医師を含めた遺伝外来での進行もスムーズとなると思われた。遺伝専門医の医師を増やすことも重要であるが、それ以上にカウンセラーの増員が求められると考えられた。
遺伝・乳腺・婦人科を含めた3科合同カンファレンスが定期的に開催されており、お互いの状況や症例の確認がなされていた。また、カウンセラー・看護師も参加しており、患者の詳細な情報提供がされていた。
HBOCやLynch症候群など婦人科が関係する遺伝性悪性腫瘍の実際の患者、RRSOなどの予防的手術などに関して実際の運用を見学できた。
3)細胞診断部見学:婦人科細胞診
がん研有明病院では病理診断部とは独立して細胞診断部が存在している。また、その細胞診診断医は婦人科や呼吸器の臨床を行っている医師から構成されている。8名の細胞診断士とともに年間5万件という細胞診を診断していた。婦人科細胞専門医で部長の杉山先生にレクチャー頂いた。
臨床医が細胞診断を行う事により、そこから臨床での細胞診採取の方法など、より良い検体採取法の確立など多くのメリットがある事を理解した。自分で見て診断することにより、臨床の場において更に良い検体採取・良い診断が行えると学んだ。
4)婦人科外来診療
おそらく全国で最も患者数の多い病院であり、その忙しい外来を見学させて頂いた。婦人科腫瘍専門医の外来診察を見学し、コルポや組織診の方法など当科でも取り入れたいと思う。
2. それをどのように教育に生かすか(いつまでに、どのような形で、どこまで)
高知県には婦人科腫瘍専門医が不在である。先輩医師の指導・学会などでの知識で臨床を行っている。しかし、全国やがん専門施設での外来から診断・治療に至る流れ、その検査法や扱いに関しては学ぶことが多い。良いポイントに関しては当科の腫瘍管理にも導入し、若手医師にも伝えていきたい。
3. それをどのように臨床に生かすか(いつまでに、どのような形で、どこまで)
悪性腫瘍の腹腔鏡手術に関して、子宮体がん早期に関しては保険収載されており、高知県内でも行える施設になる必要がある。子宮体がん進行例や頸がんなどでは、現時点では根治性等の面で早期の導入は難しいかと考える。産婦人科内視鏡技術認定医の資格取得をし、高知大学でまずは子宮体がん早期症例に対する腹腔鏡手術が可能になるようにしたい。
遺伝診療に関しては、当科でも周産期・不妊内分泌の分野で遺伝専門医が在籍しており、遺伝カウンセリングは可能と考えられる。ただし、悪性腫瘍に関して専門的な遺伝も必要と考えられる。今後は臨床遺伝専門医取得に向け努力する。また、専門医取得がなくても婦人科腫瘍に関係するHBOC・Lynch症候群などに関しては、学会などに参加し最新の情報を提供できるように準備する。
細胞診に関して、手術症例においてはこれまで当科でもスライドを確認してきた。今後は細胞診専門医取得や検体採取法の改善を行っていく。
4. それを実行するための方策
今回の研修で得た知識を科内で報告し、良いものに関しては導入する。
遺伝性悪性腫瘍に関して、当科で扱う可能性のあるHBOC・Lynch症候群などは外科との関連が強い。症例があれば外科との綿密な関係性が必要であり、現在の遺伝の会議でもよいが、カンファレンスという場を定期的に設けることも重要ではないかと考えられた。
1週間の研修を通じて、臨床研究や先進治療など日本のがん治療の中心としての役割を担うために常に意識した臨床をされていた。高知県という都心からは離れた地域であっても、臨床研究などの最新情報に敏感になることにより患者への情報提供が可能であり、必要であれば治験の導入や紹介なども行わなければいけないと考えている。
文責 高知大学医学部 産科婦人科学講座 牛若 昴志