聖路加国際病院における研修報告
研修期間 | 2018年2月5日~2月9日 |
報告者 | 川崎医科大学附属病院 山下 絹代(看護師) |
研修目的 | 他院での看護のスペシャリストの活動および連携について見学を行い、当院での活動に役立てる |
1日目(2月5日)
8:20~10:00
①病院オリエンテーション
<聖路加国際病院概要>
・520床 ・全室個室(ICU、小児病棟除く)
・1日平均入院患者数:479名 ・1日平均外来患者数:2229名
・平均在院日数:7.9日 ・病床利用率:88.1%(動態)
・JCI認定医療機関(Joint Commission International)
・理念:創設者のルドルフ・B・トイスラー博士による理念を掲げている
・運営の基本方針:8項目あり、その中には患者と一緒に運営をしていくという考えが組み込まれている
・受診される皆様の権利(患者の権利)が9項目作成されていると共に、守って頂くことも9項目作成され明示されている
・宗教による制約はないが、チャプレンが数名現場で活躍している
・医療の質の評価を定期で行っている
<看護部の概要>
・看護部の理念
患者の生活の質の向上を目指した看護サービスの提供と患者自身が自分をケアしていけるような自立への支援が
組み込まれている。また看護の専門職者としてキャリアアップについて自分で見つけ進んでやっていくという考えが
理念に入っている
・看護提供体制
2交代制と3交代制 受け持ち制。一部はプライマリーナーシングや機能別看護を導入
・看護部検討会
・看護ケアに関する検討会
専門看護師や認定看護師が中心となって行っている
・看護管理に関する検討会
看護記録検討会やがん患者サポートプロジェクトなどがある
10:00~17:00
②7階東病棟 見学
乳腺外科・形成外科・消化器外科・救急部の混合病棟
ナーシング:受け持ち制
病院全体に患者の移送担当のスタッフがいる
<病棟スタッフについて>
・専門看護師1名とクリニカル・ナースエデュケーター(CNE)1名を含む
CNE:聖路加国際大学内の看護教育に関する大学院コースを卒業し、
卒業後は院内教育と学生教育に関連した業務を担う
・1、2、3年目が多い(全体の3分の2)
・各勤務のインチャージが指示受けと入院患者の決定を行う
<研修指導者>
Zがん看護専門看護師
【シャドーイングをして気付いたこと】
*スタッフへの声かけを意図的に行い、丁寧なケアを見せる:実践
*できていないところを補う支援や全体の業務の状況を見て声かけを行う
*スタッフにとって脅威にならないような態度をとる
*指示の確認・変更の依頼を積極的に行う
*積極的に医師と情報を共有し、指示をもらう
【Zがん看護専門看護師の病棟以外の活動】
・院内の臨床倫理の取り組み(看護師対象)
もやもやしていることを話し合えるような勉強会を開催
開催の準備やアドバイスとしての役割を担う
2ヶ月に1回ワーキングを行う
2日目(2月6日)
7階東病棟見学
<研修指導者>
Zがん看護専門看護師
回診時に医師への患者に関する情報提供・指示確認
緩和ケアチームと腫瘍内科の医師が患者の部屋内で一緒に話し合う
Iがん看護専門看護師は、出来るだけチームの回診や医師の診察に同席するよう
にしていた。また、意識的に緩和ケアチーム・腫瘍内科の回診時に声をかけ、患者の
情報提供を行い話し合っていた
自壊部処置・背部清拭・足マッサージ(看護師5名)
看護師5人でケア
専門看護師として実践を見せるため、患者への負担を考え、一緒にケアをする時間を作り、ケアの統一化を考えて
5名でケアを行う
緩和ケアチーム介入中の患者のオキシコンチン服用の工夫を緩和ケアチームに依頼
オキシコンチンの内服に抵抗を持っている患者への対応の相談を積極的に行っていた
クリニカルパス(乳腺外科・ティッシュエキスパンダー)見学
<乳腺外科の患者の術後>
Zがん看護専門看護師は、クリニカルパスを用いて業務改善に関わり、2時間後離床・4時間後食事開始に変更していた
ティッシュエキスパンダー挿入患者は、退院前に手帳をもらい、自己で記入するように指導していた
翌日退院する予定の患者について話し合い(退院支援看護師・主治医・看護師)
話し合いの中で退院支援が必要な患者についてどのように支援をするのか確認していた
3日目(2月7日)
緩和ケアチームの見学
<研修指導者>
Y緩和ケア認定看護師
緩和ケアチームメンバー
・腫瘍内科医 ・精神科医 ・緩和ケア認定看護師 ・薬剤師
緩和ケアチームラウンド(ベッドサイド訪問)
・チーム診療患者一覧を作成し、チーム内で情報共有を密に行っていた
・ラウンドしながら患者の状況やアセスメントした内容を確認しあう
回診時に主科の医師が患者といる時は、一緒に患者の話を聞く
・病棟の看護師も一緒に同席することもある
・毎日ラウンドし、医師・看護師・薬剤師が分担して記録を記載していた
・チームからの提案は、直接担当看護師に伝える場合と記録に記載して伝える場合と両方があった
・処方の基本は主科の医師が行うが、状況に応じて緩和ケア科も処方をすることがあった
緩和ケア病棟患者のドクターカンファレンスの見学
(参加者:緩和ケア科の医師 病棟看護師)
・病棟のインチャージの看護師が患者の詳細を申し送り、医師の指示をもらう
・入院や転科・転棟の患者の人の申し送りは、医師が行う
<看護師から緩和ケアチーム内の緩和ケア認定看護師へのコンサルテーションの方法>
・メール・電話で相談を受ける ・紙面を用いて相談の案内をしていた
緩和ケア病棟カンファレンス
(医師・看護師・薬剤師・精神腫瘍科医・心療内科医・医療ソーシャルワーカー・理学療法士・栄養士
・言語聴覚士・チャプレン・音楽療法士チャイルドライフスペシャリスト・ボランティア)
・緩和ケア病棟のチーム医療に携わるメンバーでカンファレンスを行う
・全員が揃うことはないが、多職種のカンファレンスを行っていた
・受け持ちの看護師がプレゼンテーションを行う
・症状コントロール・状況確認・方針について話し合う。患者に対する思いも発言していた
・毎週木曜日は死亡退院患者のカンファレンスも行う
・カンファレンスの記録はその場で電子カルテに入力していた
緩和ケアチーム新規依頼患者対応の見学
<新規依頼患者の対応の流れ>
1) 主治医からの新規依頼の連絡を受け、電子カルテ上の依頼内容を確認する
2) チーム診療患者一覧とデーター集計用の表に入力
3) 緩和ケア実施計画書の作成(診断名はがん腫のみ記載・医療者名は入力)
4) コスト依頼の入力
5) 情報収集
6) ベッドサイドラウンド(医師と看護師)
7) 記録(アセスメント・計画まで記載する)
<緩和ケアチームと循環器のチームとの連携>
・心不全緩和ケアミーティングの開催(月に2回)
・参加者:緩和ケアチームメンバー・循環器医師・慢性心不全CN・外来看護師・集中治療室看護師・病棟看護師・薬剤師
連携方法
・心不全の症状緩和のためのオピオイド使用は緩和ケアチーム医師が行った
・意思決定支援も緩和ケアチームが行った
・心不全のコントロールは循環器関係のスタッフが行った
4日目(2月8日)
緩和ケア病棟の見学
<研修指導者>
Xスタッフ看護師
緩和ケア病棟への入院経路
・外来(必ず看護師の面談を外来で行い、意思表示を確認している)
・入院(他科の患者が転科・転棟)
※延命処置をしない、積極的治療をしないという意思表示がある患者
※患者は飲酒・ペットの持ち込みが可能
死亡宣告への立ち合い
家族が揃ってから医師が死亡確認を行っていた
内服の配薬・点滴施行
点滴をしない時間を作るように時間が配慮されていた(例:5時間で投与)
医療用麻薬は基本的に皮下で投与している
亡くなった方の全身清拭・更衣
亡くなった方の全身清拭はご家族と一緒に行い、陰部洗浄は看護師が行う
エンゼルメイクは家族主体で行う
お見送り
葬儀社が緩和ケア病棟の病室に来棟し、霊安室を使用せず出棺(以前入院していた病棟や主治医にも連絡)
車が出る駐車場まで家族・医師・看護師も一緒に降りる
一般病棟では霊安室に葬儀社がお迎えに来る
緩和ケア病棟カンファレンス
お茶会見学(グランドピアノ演奏)
カンファレンスに参加していた音楽療法士がグランドピアノで演奏と歌を歌い、
病棟全体で聞こえるようにしていた
<緩和ケア病棟での催し>
ボランティアが中心に開催
・誕生日会 ・季節の催し物(月1回)
・ミニコンサート(月数回)
・チャペルアワー(毎週月。チャプレンやボランティアで歌を歌ったりする)
・ティータイム(毎日14:30~15:30)
・リフレクソロジー(週3回。希望者に行う)
・アロマセラピー(希望者に行う)
・傾聴ボランティア(日曜)
緩和ケアチームカンファレンス
参加者:緩和ケアチーム員・腫瘍内科医師・医療ソーシャルワーカー・外来看護師・チャイルドライフスペシャリスト
記録者:緩和ケアチーム専従看護師・薬剤師
緩和ケアチームの新規患者や状態が悪化している患者の情報共有(患者の楽しみなどについても情報共有)
困っていることの話し合い
5日目(2月9日)
女性総合診療部(産婦人科・泌尿器科・整形外科)6階西病棟の見学
<研修指導者>
W看護師
入院受け
当日手術入院のため、外来で説明を受け記載した同意書を確認し受け取る
緊急連絡先は自宅で記載してきてもらう
手術の準備のため、カルテ・更衣を行う
手術出し
手術室までは患者が歩行で入室、家族は手術室近くの待機室で待機する
手術室へ申し送り時、執刀医・手術室看護師・病棟看護師・患者が同意書を一緒に見て確認をしていた
手術受け
リカバリー室で申し送りを受け帰室する
化学療法開始の見学(ジェムザール)
薬剤部で混注し閉鎖式のルートが接続され病棟に届き、主治医が点滴を繋ぐ
※化学療法:基本はオンコロジーセンター(外来)で行う
婦人科の化学療法の導入は入院で行う
レジメンの用紙を見ながら点滴の確認を行い、施行の準備をする
化学療法は留置針22G以上であることを確認する
病棟カンファレンス
(病棟看護師・外来看護師・退院支援看護師・医療ソーシャルワーカー)
受け持ち看護師がプレゼンテーションを行う
記録は病棟看護師が電子カルテに入力
現在の状態・今後・看護計画・家族・外来での状況など情報共有する
15:00 全体の振り返り(教育センター)
<臨床倫理の勉強会の取り組みについて>
・目標:中堅看護師が倫理問題について倫理理論を用いて系統立て考えることができる
・中堅看護師以上を対象として大学の先生の協力を得て行う
・専門看護師が中心となりワーキンググループを結成(重症・がん・精神・小児の専門看護師)し、
2ヶ月に1回集まっている
・全看護師を対象とした会も開催している
・今後、事例検討会もする予定
<リエゾンチーム>
・患者の精神的な問題に関するチーム
・医師
・リエゾンの看護師3名
・看護師から各病棟で声をかけ、ラウンドしている
・看護師が状況を把握し医師に伝える
<看護師の他の取り組み>
精神看護検討会(月1回)
<チャプレンによるスピリチュアルケア>
クリスチャンであることなど関係はなく、
スピリチュアルケアを求めている患者やご家族への働きかけをしている
<がんサバイバーシップを支えるための取り組み>
・就労Ring
看護師、ソーシャルワーカー、社会保険労務士、産業カウンセラー、ハローワークなど
専門のアドバイザーのミニレクチャーとディスカッション
・おさいふRing
看護師とソーシャルワーカー、ファイナルシャルプランナー、社会保険労務士を
アドバイザーとした経済面に関する講座とグループワーク
・ご家族と友人のためのプログラム~身近な人ががんになった方へ~
家族を含めてどのようにがん患者と過ごしていくとよいのか講義を行う
・がんと共にゆったり生きる
知識の提供とがんを抱えながら生きている人々の話し合いの場
がんサロンは、場所の問題やがん腫がさまざまであることもあり、開催していない
まとめ
1. 研修先において学んだこと
見学目的に挙げていた以下の6点について学ぶことができた。
① 病棟で活動している専門看護師の活動の見学で学んだこと
専門看護師は、医師と病棟看護師の状況を把握し、率先して多職種への調整を行っていた。特に、日勤帯は手術や外来で不在の医師に対して、早朝や手術後などに医師を見つけて患者の状態を伝え指示をもらうように働きかけていた。また、緩和ケアチームメンバーへの声かけも率先して行っていた。看護実践は丁寧であり、病棟看護師と協力してケアを行う時にケア方法について指導し、病棟看護師のケアの向上に繋げていた。病棟看護師に自ら声をかけ、相談に乗っていた。病棟業務だけでなく、臨床倫理など病院内での活動にも積極的に活動していた。見学を行い、私の病棟での活動と似ているところも多く、日々の実践や多職種への調整をこまめに行っていくことの大切さに改めて気付くことができた。私の病棟において臨床倫理に関する相談をインフォーマルに受けることが多いため、病棟外での活動方法について学び参考になった。
② スペシャリスト同士の連携について
複雑な問題を抱える患者のことについて、病棟所属の専門看護師から緩和ケアチームの認定看護師へ情報提供や相談を行い連携していた。緩和ケア認定看護師と慢性心不全認定看護師の連携により心不全患者の緩和を行った事例について話を聞き、カンファレンスを有効に活用していることを学んだ。また、看護師の教育のために院内教育以外にも臨床倫理のワーキングや事例検討会などを行いスペシャリスト同士で連携を図っていることも学んだ。
③ 多職種との調整
患者に関係する職種に対して専門看護師や認定看護師から声をかけ、多職種が患者に関わりを持てるような調整を行っていた。主に医師や退院支援看護師や外来看護や医療ソーシャルワーカーなどに声をかけている場面によく遭遇した。声をかけるタイミングは、患者の部屋を色々な職種のスタッフが訪室している時や、カンファレンスの時が多かった。専門看護師や認定看護師が話しやすい環境を作っており、医師が積極的に患者の状態を専門看護師や認定看護師に尋ねていた。多職種との情報共有をこまめに行う必要性について学ぶことができた。
④ スタッフの相談支援や教育
日々の業務での悩みは病棟看護師同士として相談に乗っていた。緩和ケアチームの専従看護師としては、メールや電話での相談に乗っており、相談を受けやすいようにチラシを作成し、電話をかけてもよいことを各病棟看護師に伝えるような働きかけをしていた。スペシャリストが相談を受けやすい体制づくりを考えることが必要と学んだ。
⑤ 緩和ケア病棟での看護
終末期のがん患者の残された時間を大切にするため、患者が大切にしていることや落ち着くことを探しながら看護を行っていた。ケアを丁寧に行い、家族へこまめに声をかける大切さを学んだ。医師と看護師が1日に2回はカンファレンスを行うようにしており、コミュニケーションを密に行っていた。また、カンファレンスを利用して患者に対する思いを表出するようにしていることが、スタッフ同士のグリーフケアに繋がっていた。カンファレンスやコミュニケーションによってストレスを軽減する環境づくりが、終末期のがん患者や家族への丁寧な関わりに繋がっていることを学んだ。
⑥ 女性疾患の患者に対する看護
超急性期の患者から終末期の患者の看護を行っている病院であり、クリニカルパスを用いて、手術後の安静時間や食事摂取可能時間の短縮化を行っていた。そのためには、評価を行い医師に数値で示し、問題ないことを明らかにするようにしていた。クリニカルパスを用いて業務改善を行う必要性を学んだ。
2. それをどのように教育に活かすか(いつまでに、どのような形で、どこまで)
① 今後も、今まで通り日々の看護の実践を丁寧に行い、病棟看護師と一緒に行う時間を作る。
② 3月までに見学してきたことを病棟看護師に病棟のスタッフ会議の時間を利用して伝達する。
③ 来年度、グリーフケアについての講義を行い、患者と家族へのケアが少しでも良くなるように働きかける。
3. それをどのように臨床に活かすか(いつまでに、どのような形で、どこまで)
① 今後も、医師や多職種との連携を意識して調整役として自ら声をかけ、連携を密にできるようにする。
② 来年度に緩和ケアでの相談を受けやすいような体制を考え、3年目の看護師でも相談できるようにする。
③ 乳腺外科の手術後の安静時間の短縮化と手術室への歩行での入室ができないかについて、
業務改善担当の看護師と半年間かけて相談を行う。
④ 来年度、認定看護師との事例検討会の機会を利用して、スペシャリスト同士の繋がりを作り、
連携できることを考えて行動する。
4. それを実行するための方策
① 日勤でのケアを行う時に、ケアを協力しながら行うように病棟看護師に自ら声をかける。
② 3月までに見学してきたことをまとめる。
③ グリーフケアについて勉強をする。勉強したことをまとめて講義を行う。
④ 医師や医療ソーシャルワーカーやリハビリなど多職種との連携を意識して自ら声をかける。
⑤ 緩和ケアでの相談を受けやすいような体制づくりを専従看護師に相談する。
⑥ 乳腺外科の手術後の安静時間の短縮化と手術室への歩行での入室ができないかについて、
業務改善担当の看護師に相談する。
⑦ 来年度、認定看護師との事例検討会の機会を利用して、スペシャリスト同士として
話しやすい環境づくりを努めて行う。
文責 川崎医科大学附属病院 看護師 山下 絹代